『逆転のトライアングル』
監督・脚本/リューベン・オストルンド
出演/ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン、ドリー・デ・レオン、ウディ・ハレルソン他
配給/ギャガ
カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した超ブラックな衝撃作。ということで期待のハードルをかなり上げて見ました。
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トップモデルで人気インフルエンサー女性と今イチ男性モデルの格差カップルをはじめ、「私はクソの帝王」と名乗る有機肥料でひと財産築いたロシアの新興財閥オリガルヒの夫婦、武器商人の夫婦、「会社を売却して腐るほど金がある」と自慢する男、アル中の船長など、現代の欲望社会における鼻持ちならない勝ち組セレブばかりが乗り合わせた豪華客船が難破し、無人島に漂着。生き残った数名の中には、裏方スタッフの中でも最低層にいるトイレの清掃婦がいた。しかし、このおばちゃんがサバイバル能力抜群で、船が転覆すると同時に、上下関係もひっくり返るというストーリー。
一般的に認識されている社会のヒエラルキーを覆して、徹底的に皮肉り、溜飲を下げるというのが本作の趣旨じゃないかと思います。
自分は時事漫画を描く職業柄、政治家をおちょくったりと、この映画と通底するところがあるように思うのです。ただですね、それはしょせん焼け石に水、負け犬の遠吠えというか、描いている方の自己満足の世界でして。
痛快に描かれる船内のパーティーにも注目
映画の中では、やり込められたりとか、上下が逆転したりするものの、当のリアルセレブたちは屁とも思わないでしょう。「なんだか、下々の者が言ってるんだって?」「私たちはそんな下品じゃないわ」なんて、どう描かれようと痛くもかゆくもないだろうし、体制は絶対に崩れないなと、どうしても思っちゃうんですよね。
自分はさんざん虚しさを感じているため、逆転劇を素直に受け止めて、しばしのカタルシスに浸るとまではいかない。なので、それなりに面白かったのですが星2つとしました。
本作で自分が一番面白かったのは、豪華客船内のパーティーシーン。キャビアだのトリュフだのと、高級食材をこれでもかとぶち込んだ料理がサーブされる中、船は嵐へと突入。ひどい揺れで、船酔いに苦しむ客が続出します。一人のおばさんが具合悪そうにしていて、〝ああ、ヤバイヤバイ〟と見ていたら、平静を装おうとするも我慢できずにとうとうブチまけてしまう。そのゲロの描写に声を出して笑ってしまいました。
映画の中で、しばしば吐く描写は出てきますよね。酒に酔ったり、つわりだったり。伊丹十三さんの映画にも出てきます。しかし、ここまで痛快に、止めようもない吐き気を正面から表現した作品はないかと。その点は出色の出来じゃないでしょうかね。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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