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主要国を見本に所得税の課税方法の見直しを~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

衆議院本会議の代表質問で、自民党、日本維新の会、国民民主党が足並みをそろえて、少子化対策のために「N分のN乗」課税の導入を提唱した。私は、出生数を回復するために、抜本的かつ有効な対策が初めて提示されたと考えている。


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そもそも所得税の課税方式は、個人課税と世帯課税の2つに分かれる。日本は個人ごとに税額が決まる個人課税だが、主要国で個人課税を採用しているのはイギリスぐらいで、アメリカやドイツ、フランスでは世帯所得に課税される。そのなかでフランスが採用しているのがN分のN乗課税だ。

この課税方式では、まず世帯員全体の所得を合計する。例えば、夫の所得が600万円、妻の所得が200万円なら、世帯収入は800万円となる、そして、この世帯所得を世帯人数で割る。子供が2人いて、4人家族だったとすると、4で割って平均所得は200万円となる。N分のN乗方式では、この数字を元に1人当たりの税額を計算し、それを4倍して所得税額とする。

以上の事例だと、現行の個人課税であれば、世帯の所得税は88万円だが、N分のN乗方式では41万円と半分以下になる。一方、独身世帯の場合は、現行の税額と何も変わらない。つまり、N分のN乗課税は、家族の数を増やせば増やすほど、税金が下がる仕組みなので、出生数増加の効果が確実に期待できるのだ。

ただ、提案をした自民党の茂木敏充幹事長は、官邸とのすり合わせを十分していなかったようで、政府は反発している。岸田文雄総理も、国会で「共働き世帯に比べて片稼ぎ世帯が有利になることや、高額所得者に税制上で大きな利益を与えることなど、さまざまな課題がある」と答弁している。

子育て支援の前に結婚支援が必要

もちろん、片稼ぎ世帯が有利になるのはその通りなのだが、そもそもいまの税制が中立的なのか、まず考えないといけない。いまの日本の税制は、家族構成や世帯年収が同じでも、夫婦の所得差が小さいほど税金が安くなる仕組みだ。最も税負担が大きいのは、片稼ぎ世帯だ。果たして、それは正しいのだろうか。私は、夫婦がどんな労働分担をしようとも、世帯の年収が同じであれば同じ税金を払うべきだと思う。

高額所得者の優遇という点では、子育て費用が1人につき2000万円もかかる現状を考えれば、N分のN乗課税導入による減税額は、子育て費用に一般的には追いつかない。どうしても高額所得者の節税に使われるのが嫌なら、適用に所得制限をかければよい。

私は、N分のN乗課税が無理なら、せめてアメリカやドイツが実施している2分の2乗課税を導入すべきだと思う。これはN分のN乗課税が、子供を含む家族全員の平均所得を用いるのに対して、夫婦だけの平均所得を計算するものだ。この方式なら富裕層がたくさん子供をつくって、節税するということが不可能になる。それでは少子化対策の効果がないと思われるかもしれないが、そうではない。いまでも結婚さえすれば平均1.9人の子供が生まれている。少子化における最大の原因は、結婚しなくなったことなのだ。

2分の2乗課税になれば、夫婦の所得が完全に同一の場合を除き結婚が必ず減税をもたらす。そのため、結婚へのインセンティブ(動機付け)が高まるのだ。いま子育て支援以上に必要なのは、世帯課税による結婚支援なのだ。

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