『対峙』
監督・脚本/フラン・クランツ
出演/リード・バーニー、アン・ダウド、ジェイソン・アイザックス、マーサ・プリンプトン
配給/トランスフォーマー
アメリカの学校内で銃乱射が起こり、多くの同級生が殺され、犯人の少年も校内で自らの命を絶った事件。
それから6年、いまだ息子の死を受け入れられない被害者の両親と加害者の両親。本来なら顔も見たくないであろう2組の夫婦が、郊外の小さな教会の一室で、一つのテーブルを挟んで語り合います。
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一体何のために? 何を話すんだ? これから何が始まるんだろう? と、この設定からすでに我々観客は混乱させられます。しかもほぼ全編、密室内の会話だけで進行。回想シーンでの状況説明などは一切ありません。
まずもって、本作が1人の映画監督の頭の中で描かれたフィクションであることに、驚かされました。4人のセリフ、表情、動き、その一つ一つのやりとりに不自然さがまったくなく、実際の事件でともに息子を失った当事者たちを撮影したドキュメンタリー映像かと勘違いするほどです。実によくできた映画だなぁと…これが星3つをつけた理由です。
単調になりそうな密室劇だというのに、相手の言葉を受けての動揺、次第に感情が高ぶって激昂、やっと1人が落ち着いてきたと思ったら、今度は別の人が…と、順繰りに立場と視点の異なる人の論理が展開されて、我々観客はその近くで固唾をのんで見守っている気分になります。監督は入念な聞き込みを基に脚本を練り上げたようですが、相当に緻密な構想力です。
あらゆる物の配置にも意味が…
そして密室劇だけに、ささいな変化まで見る側は敏感になってしまうわけです。テーブルと椅子の配置、少し離れた場所にあるソファ。全部が意味を帯びてきます。
最初はおとなしく椅子に座っていたものの、話が噛み合わなくなって激昂すると思わず取ってしまう人間の行動は、まずはそのテーブルから離れてソファに行き、自分で冷静になろうとするんですよね。
日本において加害者側と被害者側の対決で真っ先に思い浮かぶのは、東池袋で起きた母子死亡事故でしょう。あの遺族と「上級国民」側の家族が、裁判所以外で顔を合わせるなんてことはないでしょうが、アメリカでは両者の会談による一種のセラピー制度があるようですね。この映画の舞台が教会の中であったように、社会にキリスト教の懺悔の文化があるからでしょうか。
もし、自分ならこんな会談のテーブルに着くことができるだろうか。加害者の、しかも自殺してしまった息子の親だったら、どのように弁明するだろうかと、さまざまな立場でシミュレーションしてしまう。動きの少ない映画を見ている頭の中は、大忙しでしたね。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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