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LiLiCo☆肉食シネマ~『エゴイスト』/2月10日全国公開

Ⓒ2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

『エゴイスト』
監督・脚本/松永大司
出演/鈴木亮平、宮沢氷魚、中村優子、和田庵、ドリアン・ロロブリジーダ、柄本明、阿川佐和子
配給/東京テアトル

時間は大きな滝の水の勢いよりも早く流れていくようで、自分の身体と魂が本当に同時に動いているのかさえ分からない不思議な感覚。隔週のこの連載に〝映画ソムリエ〟として作品紹介を書き出すたびに「もう2週間経ったのか」と思ってしまっている私です。

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…と、思わずボヤいてしまいましたが、今回は自分自身を見直す意味も含めて、奥深い作品をご紹介。

私はいつも映画を見始めると、すぐに考えるのが「この作品はどこでタイトルとしっくり合体するのか?」。エゴイストとは直訳で利己主義者。今まで、あの人は…みたいなときに浮かぶマイナスな例えが多かったけど、今作を通じて初めて良い言葉に感じました。

解釈は人それぞれですが、私にとってエゴイストとは、いわゆるおせっかいのようなもの。〝おせっかいオバさん〟って、しつこくて何でもかんでも首を突っ込むイメージですが、時に命を救えるくらい、プラスに作用することもある。そう、エゴイストって自分自身を救える言葉。そして一つの〝在り方〟でもあります。

私にとってこの映画は、改めて自分を感じることができ、そして自分と向き合うことができる時間でした。物語が進むにつれて、すべてが繋がったときの気持ち良さはたまらなかった。映画の捉え方は自由ですが、私と同じものを感じてくれたら、これはあなたにとって特別な1本となります。

幸せな時間は僅かながら満ちる気持ち

浩輔を演じる鈴木亮平さん。龍太を演じる宮沢氷魚さん。浩輔と龍太がお互いが惹かれ合いカップルになりますが、単に2人の恋愛模様を描いているわけではありません。互いに抱えるトラウマや苦い思い出、そして本当の自分を隠すためにまとってる厚い鎧。劇中では幸せな瞬間はとても少ないけど、結果タイトルに辿り着くと、満たされているところも多くあった。

先日、ラッキーなことに松永大司監督とトークイベントでお会いしましたが、聞けば、あえてドキュメンタリーっぽく自然光で撮り、そして台本を頻繁に変えたらしい。俳優はきっと困ったでしょう(笑)。でも、そうしたことによって生まれる空気感がとても自然で、観客としてはスクリーンに映し出される人物たちを穏やかに見守っていられる。亮平さんと氷魚さんの演技に魅了されるのはもちろん、阿川佐和子さんのナチュラルな存在が素晴らしかった。物語、空気感、俳優、見終わった後の感覚、すべてが好きです。

この作品を見終わった後、これまで感じたことのなかった自分がいました。

LiLiCo
映画コメンテーター。ストックホルム出身、スウェーデン人の父と日本人の母を持つ。18歳で来日、1989年から芸能活動をスタート。TBS『王様のブランチ』、CX『ノンストップ』などにレギュラー出演。ほかにもラジオ、トークショー、声優などマルチに活躍中。

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