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やくみつる☆シネマ小言主義~『すべてうまくいきますように』/2月3日(金)公開

Ⓒ2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE PICTURES

『すべてうまくいきますように』
監督・脚本/フランソワ・オゾン
出演/ソフィー・マルソー、アンドレ・デュソリエ、ジェラルディーヌ・ペラス、シャーロット・ランプリング、ハンナ・シグラ、エリック・カラヴァカ、グレゴリー・ガドゥボワ
配給/キノフィルムズ

この映画タイトルだけを見た方は、自ら死を選ぶ「安楽死」がテーマだとはよもや思わないことでしょう。

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バイセクシュアルであることを家族に隠さず、自由奔放に生きてきた85歳の父親が、脳卒中で身体の自由が利かなくなったことを理由に「安楽死」を望み、あろうことか、その合法的な手続きを最愛の娘に頼むという話。誰にでもいつかは訪れる家族との別れ。しかしそれが「安楽死」だったとしたら…。先日この連載でもご紹介した倍賞千恵子主演の映画『PLAN75』のテーマでもありましたが、本作はその主題で日仏の双璧をなす映画になるのではないかと思いました。

しかし、本作はさすがフランス映画。『PLAN75』とはまったく異なるテイストです。死を扱って重くも湿っぽくもならず、少しユーモアを利かせた脚本、名優揃いのキャスティングも演出もことごとく成功しています。

中でも、日本でも大ヒットした映画『ラ・ブーム』でアイドル的な人気を博したソフィー・マルソーの存在感が秀逸です。父に「安楽死」の手伝いを求められて反発、葛藤しながらも、父の本気度を知るや、なんとか実現してあげようと奔走するまでの感情の揺れを、抑制の利いた自然な演技で表現していて、こんな名女優になっていたかと驚きました。007シリーズに出るなど、ずっと活躍していたようですが自分は存在すら忘れていました。現在56歳、美熟女というか、こんなにいい年の取り方をしていたんですね。

他人事ではない問題

それにしても本作のテーマは、終活期に入った自分にとって、そしておそらくは実話の読者の方々にとっても他人事ではなく、この父親の選択はアリかもと思うのは自分だけではないはず。「安楽死」は個人主義が徹底したフランスでさえまだ合法ではなく、自己決定能力が失われる前にスイスなど合法化している国にまで行かないと実行できない実情。昨年も、91歳のゴダール監督がスイスの自宅で自殺幇助を受けて亡くなり、欧州での論議が再燃したようですね。

自分の両親は長く患うことなく逝ってしまったのですが、義母はコロナ禍の中、長期入院しておりました。PCR検査を繰り返して陰性が続けば病室に入ってよいとのことで、カミさんは確実に死に近づいている義母に向き合い続けました。「生を全うするまで」と言うと聞こえはいいですが、本人も周りもギリギリの精神状態だったことでしょう。

この先の多死社会を前に、日本でも「自分らしい終末期」の権利を議論すべきでは、と思えるいい映画でした。

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

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