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岸田首相目指すは2027年までの“長期政権”!? 現実は「来春G7サミット」が限界か

岸田文雄
岸田文雄 (C)週刊実話Web

内閣支持率が下落の一途をたどり、追い詰められた岸田文雄首相。自民党側の全面支援を得て局面打開を図ったとはいえ、いまだ進路には霧が立ち込める。目指す長期政権は実現できるのか、それとも進退窮まることになるのか、首相にはなお難題が待ち受ける!

「2027年に向けて、1兆円強については、国民に税制で協力をお願いしなければならない。所得税の増税は行わない」

岸田文雄首相は12月8日の政府与党政策懇談会で述べた。

この秋、岸田政権にとって大きな焦点となっていた防衛力強化について、2023年度からの5年間で防衛費を総額43兆円とする一方、来年度からの増税は見送り、27年度以降に不足するであろう1兆円の財源については、増税で賄う方針を示したのだ。念頭にあるのは法人税だ。

「苦渋の決断だったが、首相がいま置かれている状況からすれば、自民党側にここまで押し込まれたのは仕方がない」

党側との攻防を終えて、政府関係者は首相の心境を代弁してみせた。

どういうことか。

岸田政権は、首相と自民党の麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長の「トライアングル」が中枢だ。だが、首相が実際に政権運営上の判断や具体的な政策展開をする際は、木原誠二官房副長官(政務)や村井英樹首相補佐官ら、首相官邸に詰める最側近のスタッフに拠っていた。

ほかにも官邸には、元警察庁長官の栗生俊一官房副長官(事務)や元経済産業事務次官の嶋田隆首相秘書官をはじめ、次官経験者が4人も顔をそろえ、「側近政治と官僚主導」(前出・政府関係者)が岸田政権の実態と言っていい。

この体制の下で始まった防衛力強化の議論において、主導権を握ったのは、木原、村井両氏の出身官庁である財務省だった。

政府は中国や北朝鮮、ロシアの脅威に備えるため、防衛費を5年後に国内総生産(GDP)の2%規模に引き上げる構えだ。

菅義偉前首相にも頭を下げる

しかし「野放図な防衛費の増加と、いたずらな国債発行は阻止したい」のが、財務省の本音でもある。そこで、総括的な議論を行うため9月末にスタートした「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」は、事務局を財務省出身の藤井健志内閣官房副長官補が仕切る「異例」の態勢となった。

官邸筋が話す。

「財務省は2022年度予算で5.4兆円の防衛費について、海上保安庁や港湾土木などに関連する予算を寄せ集め、これらを発射台にして5年総額を40兆円程度に抑えようとした。〝真水〟の防衛費は30兆円台前半にすぎない。財源も『国民に広く薄く』を前面に出し、法人税や所得税の増税を視野に入れていた」

こうした財務省の策動に首相が乗ったことで、「真水で総額48兆円」を求める防衛省の苦戦は明らかだった。だが、岸田政権が安倍晋三元首相の国葬実施や、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をめぐる問題でつまずいたことで、状況は大きく変わってきた。順風満帆に見えた政権に、強力な逆風が吹き始めたのだ。

10月の下旬以降、山際大志郎前経済再生担当相が旧統一教会との関係を理由に辞任し、葉梨康弘前法相が「死刑のはんこ」発言で引責辞任に追い込まれると、事態はますます深刻化する。

内閣支持率は下落の一途をたどり、官邸は「このままでは政権が倒れる」(前出・官邸筋)というくらいまで追い込まれていった。

ここまで来ると首相も動くしかなく、11月下旬から月末にかけて、麻生氏や茂木氏をはじめ、与党の政権幹部とほぼ毎日会合を持った。「政権運営への協力をひたすら求めた」(同)のだ。非主流派として遠ざけた菅義偉前首相にも頭を下げた。

自民党関係者が話す。

「首相は外遊先のタイ・バンコクで11月19日に行った記者会見で、局面打開のために内閣改造を検討するかのような発言をして『首相、改造を検討』と報じられた。党幹部は一斉に『聞いていない』と不快感を示し、首相はいったん白紙にせざるを得なくなった」

中でも同23日に会った茂木氏は「人事に失敗したら、もう次はありません。私は改造に反対です。官邸内で交代論のある高木毅国対委員長についても、私は代えるつもりはありません」と強く主張したという。

人事権は首相の専権であり、衆議院の解散権に並ぶ大権だ。それを政権幹部により事実上、封じられた構図が浮かび上がる。専権を抑え込まれれば、その政権は急速に失速し、多くの場合は退陣を余儀なくされる。そこまで首相は追い込まれたと言えるのだ。

一部のエリートによる統治

こうした状況に乗じて、防衛省や自民党内の「防衛族」が一気に巻き返しに動いた。

岸田首相への直談判役を担ったのは、小野寺五典党安全保障調査会長と浜田靖一防衛相だった。2人はそれぞれ、財務省による費目の寄せ集めが、いかに「まやかし」であるかを懇々と説明し、「米側が懸念を示している」と伝えることも忘れなかった。

さらには、内閣支持率が30%前後まで落ちる中で、「来年春の統一地方選挙や衆議院・和歌山1区、山口4区の2補欠選挙を考えると、国民の懐を痛める所得税増税は絶対にやめた方がいい」と進言。春闘での大幅な賃上げを実現させるためには、「法人税の拙速な増税も控えるべきだ」と説いた。

11月24日昼、浜田氏と会食した首相は「分かった」と言うしかなかった。ここで、防衛費の5年総額を真水で40兆円台前半とし、来年度からの法人税と所得税の増税は、見送るという方針が固まった。

首相の動向に詳しい政府関係者が、このあたりの事情を解説する。

「もともと岸田首相は財務省に乗せられていただけなので、防衛財源の在り方に強いこだわりはない。今後の政権運営や選挙のことを考えると、党側に軸足を移すことに何のためらいもなかった」

こうした首相の「無定見で厚顔」(同)な判断により、冒頭の政府与党政策懇談会での発言になったというわけである。

だが、この発言を聞いて「ちっ」と舌打ちをした人物もいた。時が来れば、菅氏をもう一度押し出したいと考えている党無派閥のベテラン議員だ。

「首相は2027年という年限を出してきた。この年まで続けたいという意思表示とも取れる。法人税増税を先送りしたとはいえ、27年から本格増税する道筋を付け、赤字国債発行も回避した。今回、防衛省は80点だったが、財務省もしたたかに60点は取れている」

ベテラン議員は、なんとも苦々しげに続けた。

「財務省中心の官僚主導が土台として残る一方、党の影響力が強まったことで、結果として岸田政権は一連の局面をしのぐことができた」

それにしても、政権の土台を成す「官僚主導」とは何なのか。岸田首相は、吉田茂や池田勇人、大平正芳、宮澤喜一の流れをくむ「保守本流」の宏池会出身だ。4人の元首相は、いずれも官僚出身であるだけでなく、霞が関をフルに活用して政策を進めた手法が共通する。岸田首相の「官僚主導」体制は、それに倣ったものだと言っていい。

首相の「官僚重視」は徹底しており、閣僚は官僚出身者が幅を利かす。しかも特徴的なのは、官邸のスタッフを含め「最難関校から東大に進み、中央省庁に入った者が目立つ」(前出・官邸筋)ということだ。

現在の筑波大付属駒場高卒は齋藤健法相と後藤茂之経済再生相で、葉梨氏もそうだった。西村康稔経済産業相は灘高出身で、松本剛明総務相と木原氏は武蔵高から東大に行った。嶋田氏は開成高OBだ。

東大受験に失敗したとはいえ、かつては首相も開成高で学んだ。先の政府関係者によると「重要な政策を進める際、岸田首相は最難関校出身の『スーパーエリート』による統治が最もいいと考えている」という。

官僚主導という視点に立つと、にわかに見えてくるものがある。先の自民党関係者が話す。

「よく『岸田政権は何もしていない』と聞くが、それは違う。官僚組織がまとめ上げた政策を遂行しているのです」

5月の「G7」が退陣の花道

政権の最重要課題が「経済再生」と「財政再建」、そして「安全保障の確保」であることは言をまたない。これらは官僚組織が毎年6月に練り上げる「骨太の方針」に落とし込まれ、岸田政権でも「国策」となっている。「首相は骨太に沿って忠実に政策を遂行している」というわけだ。

実際、財界からの強い要請を受けて原発政策を再推進し、防衛力強化も進めた。安定的な円安と緩やかなインフレが維持できれば、産業の国内回帰と経済規模の拡大を図れる。その先には所得増と財政再建も見えてくる――。これが首相の描く好循環のシナリオだ。

先のベテラン議員が話す。

「首相は官僚組織に乗って2027年を見据え、一連の課題に成果を出したいのだろう。そのために態勢を整える光明が、ようやく見いだせたのではないか」

確かに、首相は国葬への批判や旧統一教会問題、閣僚の辞任ドミノで青息吐息だったが、政権幹部と集中的に会談したあたりから持ち直してきた。

内閣改造には「待った」をかけられ、防衛費の大幅増を飲まされたものの、旧統一教会による被害者救済法案は、茂木氏が立憲民主党と日本維新の会との調整をまとめ上げ、会期内成立にこぎ着けることができた。

防衛力増強では、麻生氏が敵基地攻撃能力の保持で党内調整が進まない公明党を粘り強く説得。防衛費の財源問題でも一致点に導いた。

麻生氏に近い関係者によると、辞任を拒む寺田稔前総務相に引導を渡したのも麻生氏だった。「11月19日に寺田氏の地元である広島県呉市にまで出向き、寺田氏と密かに会って辞任を強く迫った」という。

しかし、岸田首相の思惑通り、事が進むのかは見通せない。通常国会前に「政治とカネ」問題を抱える秋葉賢也復興相を代えられなければ、追及を受け続けるのは確実だ。早ければ年明けの1月とみられる旧統一教会の解散命令請求が腰砕けに終われば、首相の指導力に改めて疑問符が付く。

政権の命運を左右するとも言える賃上げも、予断を許さない。将来の法人税増税が企業のマインドを冷やし、ブレーキが掛かる可能性は十分にある。そうなれば春の統一地方選挙や、4月下旬の衆議院・和歌山、山口2補欠選挙に影響が出るのは必至だ。

すべてが裏目に出て、再び逆風下に置かれた場合、5月に広島で開催する先進7カ国首脳会議(G7サミット)が、本当に「花道」になりかねない。

防衛3文書の取りまとめと防衛財源をめぐる税制論議では、自民党側の発言力が増したこともあり、党内から首相の増税方針に対する批判や不満が噴出した。重要な政策判断の際に、党側と衝突する場面は今後もありそうで、その度に政権の体力はそがれていくことになる。

岸田派幹部は話す。

「長期政権なんて考えてはいけない。一つ一つ、目の前のことをやるしかない」

首相にはこの言葉が届いているのだろうか。

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