エンタメ

やくみつる☆シネマ小言主義~『嘘八百 なにわ夢の陣』/1月6日(金)より全国ロードショー

Ⓒ2023「嘘八百 なにわ夢の陣」製作委員

『嘘八百 なにわ夢の陣』
監督:武正晴
出演/中井貴一、佐々木蔵之介、安田章大、中村ゆり、友近、森川葵、前野朋哉、宇野祥平、塚地武雅、吹越満ほか
配給/ギャガ

「目利きの古美術商」中井貴一と、「腕利きの陶芸家」佐々木蔵之介が〝骨董コンビ〟を組んで、一攫千金を狙う人気シリーズ『嘘八百』の第3弾です。以前、このコーナーでもご紹介したことありましたよね。

第1作、第2作の京都から飛び出し、今作の舞台はなにわ・大阪。日本一の成り上がり、豊臣秀吉のお宝「秀吉七品」の中でも別格の名品、「光輝く茶碗〈鳳凰〉」をめぐって人々の欲の応酬が繰り広げられます。

2025年の大阪万博をパロっているとしか思えない「大阪秀吉博」。実行委員会から、「秀吉七品」のうち唯一、所在不明だった幻の茶碗を「月の石のような、人寄せパンダにしたい」というオーダーを受けて、嘘八百を尽くした贋作づくりを思いつく中井貴一。早速、贋作には欠かせない箱書き、来歴が書かれた巻紙などを作り出す贋物職人たちが集う居酒屋に出かけます。

観客にとってもすでに顔なじみの脇役メンバーが何ともいい味を出しています。この感覚って、寅さんをはじめとする喜劇シリーズの醍醐味の一つですね。本作が公開されるのも正月明けすぐですから、恒例のシリーズとして今後も続々と作られるのかもしれません。だったらなおのこと。ちょっと厳しめの意見をば。

王道“喜劇”作品のはずが…

まずもって、タイトルロゴの『嘘八百』、主役に中井貴一を起用していることからも、王道の「喜劇」作品ですよね? なのに、我々観客を笑わせる要素が少なすぎる。例えば、東京オリンピックの闇が次々と噴き出し、かつ大阪万博の準備が進む中で、本作での「大阪秀吉博」設定。おちょくるポイントはいくらでもありそうなのに、あまりにもマジメに語られています。

着想もキャストもいいだけに、喜劇になりきれてないのが残念でなりません。

その理由の一つに考えられるのが、「贋作」ができるまでのドタバタが割愛されている点。なぜか、いきなり完成してしまうんですよね。ディテールこそ見どころでしょうから、こんな弱小コラムでも参考にしていただければと思います。

さて、変なモノ収集家である自分は、ヤフオクなどでさまざまな出品物をよくチェックしているんですが、限りなく怪しいブツも多いんですよね。例えば「明治初期の手彫切手桜シリーズ」。本物ならば小さな切手一片が何百万もする逸品が、3万円程度で落札されていたりして。買う方も出品する方も「偽物かもしれない」スリルを味わっているとしか思えない古物の世界。今年は3年ぶりに東京・世田谷のボロ市も再開されるので、リアルでも味わい尽くしてやろうと思っています。

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

あわせて読みたい