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原発再稼働までの影響〜森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

大手電力会社が相次ぎ値上げを申請している。口火を切ったのは東北電力だ。11月24日に家庭用料金を平均約33%値上げする申請をした。

申請に際して東北電力は、女川原発2号機を2024年2月に再稼働することを織り込んで、値上げ幅を5%程度圧縮したと発表した。原発の再稼働がなければ、電気料金をもっと上げるぞという脅しだ。

11月25日に約31%の値上げ申請をした中国電力も構図はまったく同じで、島根原発2号機を2024年1月に再稼働することを前提に、値上げ幅を圧縮したとしている。実際、現時点で料金値上げを表明していない大手4社のうち、関西電力と九州電力では原発の再稼働が進んでいる。11月24日の産経新聞(電子版)は、九州電力の担当者の話として「来年度には原発が4基体制に復帰し、通常の運転サイクルに戻る。経営の効率化は必要だが、燃料価格高騰の影響は受けにくくなる」とのコメントを報じている。

九州電力の電源構成のうち、原子力は36%と3分の1以上を占めている。一方、東北電力は現時点では原発ゼロだから、石炭などの燃料費が2倍近くに値上がりするなかで、両社のコストに大きな差が出るのは当然のことだ。ただ、原子力発電が本当に安いのかについては、大きな疑問がある。2つのコストを算入していないからだ。

1つは、原発事故の処理費用だ。福島第一原発事故の処理費用は政府の有識者会議が出した想定で21.5兆円だが、さらに数十兆円の費用がかかるという民間試算もある。もう1つは、放射性廃棄物の最終処分にかかる費用だ。それがどれだけかかるのかは、最終処分場の候補地さえ決まっていない現段階では、試算のしようもない。

太陽光発電でコストを抑える

一方で、日本には圧倒的に価格の安い電源が存在する。太陽光だ。固定価格買取制度の下で、来年度の買取価格は50キロワット以上の大規模発電で1キロワットアワー当たり9.5円、家庭用の小規模発電でも16円だ。一方、資源エネルギー庁は、2015年に原発の発電コストを10.1円と試算している。その後に安全対策の強化でコストが上積みされ、事故対応の費用や最終処分の費用を加えれば、少なくとも大規模太陽光発電のほうがコストを抑えられることは確実だ。

小規模太陽光発電と原発の発電コストのどちらが安いかは微妙だが、家計にとっては、太陽光発電のほうがずっと安いことは間違いない。現在、一般家庭が支払っている電力料金は、基本料金込みで1キロワットアワー当たり30円となっている。屋根に太陽光発電パネルを設置して、自分で電力をつくるようにすれば、電気代が半額になるのだ。

見方を変えると、電力会社は大規模太陽光発電の電力を1キロワットアワー当たり10円で買い、家庭に30円で売っている。また、再生可能エネルギー賦課金でさらに補助金を受け取っている。いくらなんでも暴利をむさぼりすぎではないだろうか。実際、太陽光発電に大部分を由来する固定価格買取制度の電力が占める比率は、東北電力が8%なのに対して、九州電力は14%になっている。九州電力に経営の余裕があるのは、原子力だけでなく、太陽光の割合が高いからでもあるのだ。

ところが、政府はありとあらゆる嫌がらせをして、太陽光発電の普及を妨げている。その理由は、利権の温床である原発の出番がなくなるからだろう。

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