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果たして防衛費倍増が正解か~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

5年以内の抜本的な防衛力強化に向け、政府は現在GDP(国内総生産)比の1%となっている防衛費について、OECD(経済協力開発機構)が公表している一般的な指標を基に2%まで倍増させる方針だ。そのためには5兆4000億円の財源が必要となる。

財務省は所得税や法人税など、幅広い税を通じて財源を確保していく方針といわれるが、物価高で国民生活が圧迫されるなかでの大増税に、果たして国民は耐えられるのだろうか。

税・社会保険料負担が国民所得に占める割合(国民負担率)は、10年前までは30%台だった。それが近年の増税や社会保険料アップによって、昨年度は48%まで上昇している。

江戸時代の年貢率は「四公六民」と呼ばれ、その年の収穫高の4割を領主に納め、6割を農民の取り分としていた。それが中期から「五公五民」に増税されたため、一揆が頻発したとされている。いまの税・社会保険料負担は一揆直前のレベルであって、増税の余地などないのだ。

しかも、今回の防衛力抜本強化では、防衛費の総額という表面的な議論に終始し、どうやって日本を守るのかという中身の議論が十分になされていない。私は、今回のロシアによるウクライナ侵攻は、日本の防衛に向けていくつもの示唆を与えてくれたと思っている。

第1は、専守防衛が可能だということだ。ウクライナは、ロシア本土に一発もミサイルを撃ち込んでいない。あくまでも侵略に対して、自国内で抵抗しているだけだ。これまで専守防衛は夢物語だった。しかし、ウクライナ軍は世界ランク2位のロシア軍を相手に、9カ月も領土を守り続けている。憲法で戦力の不保持と戦争の放棄をしている日本は、ウクライナの戦い方に学ぶべきなのだ。

国を守るべく国民全員で戦い抜く

第2として、米国は武器をくれるが助けてはくれないということだ。ソ連崩壊後に結ばれた「ブダペスト覚書」で、米国はウクライナの安全保障に責任を持つことになっていた。だが、米国はウクライナに継続的な武器供与はしているが、米軍自体が命を懸けて戦ってくれるわけではなかった。

日本は米国と覚書より強い軍事同盟を結んでおり、米軍基地も国内に多数配置されているから、米軍の関与がより強くなるかもしれない。だが、自分の国は自分で守ることが基本なのだ。

第3は、近代的なハイテク兵器よりも、市民全体を巻き込んだ白兵戦に侵略者は弱いということだ。核兵器を使用すれば国際社会から見放される。精密攻撃が可能なミサイルは大きな働きをするが、市民が徹底抗戦すれば侵略者はそう簡単に進軍できない。それは、ナチス・ドイツのパリ侵攻やベトナム戦争のときも同じだった。

ウクライナの教訓を踏まえれば、日本を守る最も効果的な方法は、武器を持つことではなく武器を使えるようにすることだろう。イージス艦や敵基地攻撃用のミサイルを持つのではなく、ならず者国家の軍隊が日本を侵略してきたとき、戦えるよう国民に軍事訓練をしておくのだ。いざ戦争になったら、アメリカから供与を受けた武器を使って、国民全員で戦い抜く。いまウクライナがやっていることと同じだ。

こうした戦い方を準備しておけば、私は日本の防衛力は倍増すると思う。そして、この新たな防衛戦略は、日本の防衛予算をほとんど増やさずに実現できるのだ。

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