近年、ジャパニーズ・ウイスキーへの評価が国内外で高まり、市場が拡大している。中でも国産ウイスキーの人気ぶりが顕著なのは輸出部門だ。
事情に詳しい酒類輸出入業者が言う。
「国税庁によれば、国産ウイスキーの輸出額は、2011年の年間20億円から21年には461億円と10年間で20倍以上に拡大しています。国内消費量も20年には年間17万キロリットルで、10年前の2倍に拡大しています」
この急激な伸びには、3つの要因があるという。
まずは2008年ごろにサントリーが「ハイボール」を大々的に提案したこと。CM関係者が明かす。
「小雪、菅野美穂、井川遥などの美人女優を起用した『ウイスキーがお好きでしょ』のCMがハイボール人気に拍車をかけました」
2つ目は海外での日本ウイスキーへの評価の高まりだ。洋酒メーカー関係者が指摘する。
「著名なウイスキー評論家である英国のジム・マーレイが、自著で世界最高のウイスキーにサントリーの『山崎シェリーカスク2013』を選出し、日本製ウイスキーへの評価が一気に高まりました。同時期に、世界の品評会で国産ウイスキーが次々に最高賞を受賞したのも大きい」
3つ目は14年に放送されたNHKの連続テレビ小説『マッサン』の影響だ。放送作家が語る。
「ニッカウヰスキーの創業者である竹鶴政孝をモデルにした朝ドラは、平均視聴率21%を超える大ヒット。ブームに火をつけました」
この3つが重なり、国内外でジャパニーズ・ウイスキーブームが起きた。
「拡大するウイスキー市場をビジネスチャンスと捉え、全国各地から日本酒酒造メーカーや、お酒に縁のない異業種からも続々と参入が相次いだのです」(前出・酒類輸出入業者)
異業種からもウイスキー製造へ参入
ウイスキー事業に新規参入した日本酒メーカー関係者が言う。
「気候や水など、地域の強みを生かした新規の蒸留所の参入が相次ぎました。2014年には1件だけだったウイスキー製造の新規免許取得が、20年には17件に増加。現在は60カ所近くにも上っています」
そして、こう続ける。
「その草分けは、埼玉県の日本酒醸造の流れを汲み、08年に操業した『ベンチャーウイスキー』です。ここで1985年から2014年にかけて製造された『イチローズモルト』シリーズの54本セットが、19年に香港で競売にかけられ、なんと約1億円で落札されたのです。日本産で過去最高額。サントリーやニッカのような大手でなくても、ビッグビジネスになると気付かされました」
日本酒醸造元からウイスキー製造への参入としては、茨城県の老舗酒造・木内酒造がいい例だ。今年6月に『日の丸ウイスキー』を5000円(税別)で発売した。
「木内酒造は日本酒メーカーとして、日本酒で数々の賞を獲得してきた創業200年を誇る老舗です。16年からウイスキー造りに挑戦し、今年商品化されたのが日の丸ウイスキーです。品評会『東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2022』(TWSC)で早速金賞を受賞しています」(同)
焼酎メーカーからの参入もある。鹿児島の小正醸造は『ジョニーウオーカー』などのブランドを持つイギリスのディアジオと提携し、ウイスキー製造を開始した。洋酒メーカー関係者が言う。
「今年以降、シングルモルトウイスキーやブレンドウイスキーを、欧米やアジア諸国など幅広い地域に販売していく予定です」
また完全異業種からの参入では、X線装置などの医療機器を製造する吉田電材工業だ。新潟県村上市でウイスキー造りに乗り出すという。
安くておいしいウイスキーは必須
経営コンサルタントが解説する。
「吉田電材では本業がやや厳しい経営状況に置かれる中、その打開策も含めてのチャレンジ。蒸留所は村上市にあった自社工場跡地を利用し、総事業費は国の補助金も活用しての約2億5000万円。年間生産100キロリットルを想定し、コーンやライ麦などさまざまな穀類を原料にするグレーンウイスキーを生産する予定です。数年の熟成期間を経て、初年度出荷量は750ミリリットルで約2万本を目指すといいます」
製紙業界からもウイスキー造りへの挑戦が始まっている。特種東海製紙系列の十山株式会社が標高1200メートルの静岡市葵区田代の南アルプスに蒸留所を設立し、豊富で綺麗な水を生かしたウイスキー製造に着手した。2027年以降の出荷を計画している。
かくして今では空前のジャパニーズ・ウイスキーブームが到来。だがこの新規参入を横目に、金融アナリストが指摘する。
「投機的に高額ウイスキー販売を狙うだけでは、いずれは淘汰されます。一般の消費者が手ごろな値段で飲めるおいしいウイスキーを製造することが必須。現在の大手メーカーは、そのようにして生き残ってきたはずです」
新規参入企業には、世界を相手に大いに切磋琢磨してもらいつつ、一方で庶民からも愛されるジャパニーズ・ウイスキーの製造を望みたいものだ。
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