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やくみつる☆シネマ小言主義~『月の満ち欠け』/12月2日(金)より全国公開

Ⓒ2022「月の満ち欠け」製作委員会

『月の満ち欠け』
監督/廣木隆一
出演/大泉洋、有村架純、目黒蓮(Snow Man)、伊藤沙莉、田中圭、柴咲コウほか
配給/松竹株式会社

2017年の直木賞受賞作で、ベストセラーになった佐藤正午の純愛小説が実写化された本作。心から愛し合っていた夫婦とその娘、27年前の人妻と大学生との許されざる恋。

無関係に思われる2つの人生が、数十年の時を経て繋がっているのかも? という謎を解くミステリー仕立ての映画です。

冒頭から、伏線が細かく張られていますので「ん?」と思ったら見逃さず拾っておいてください。例えば、娘の何気ないしぐさとかね。自分は映画でもテレビでも小さなところに注目しながら推察するのが大好物なため、本作も面白く見ました。

役者陣も大泉洋、柴咲コウ、有村架純、伊藤沙莉と演技派揃い。いつもだと大仰なテンションが気になる大泉洋も本作では抑え気味で、感情移入しやすかったです。

さて、輪廻転生モノは、映画ではよくある主題。新海誠監督の大人気アニメ『君の名は。』もそのようです。しかし、本作がベタではあるけれども新鮮に感じるのは、物語の中で生まれ変わりが繰り返していく点。確かに1回だけとは限らなそうです。前世の記憶がある子供の話は聞いたりもしますが、その記憶が受け継がれていく例は聞いたことがありません。だから、映画などでは1回の転生しか描かれてこなかったのかも。となると「魂は何度も生まれ変わる」をうまく表現した本作は、今後の転生モノの雛型になるかもしれません。

話の内容より気になる時代背景描写

十分に面白かったのに、星を2つにした理由とは何か――。

本作の舞台の1つとなる80年代は、自分も含めて実話読者の方々の青春時代にも重なっていると思います。よく覚えている私なんかは、昭和50年代から平成初期の時代考証の「雑さ」が気になってしようがない。

例えば、時代感が最も表れやすい車種。「劇中使用車コーディネーター」のクレジットがエンドロールに入っていたにもかかわらず、「80年代にはまだ走ってないよ」と気づく車種が散見されます。合致した車種を集めるのが予算的に難しかったのかもしれません。

ただ、ナンバープレートの表示くらいはCGで変えられるだろうに、分類番号があの時代にはまだなかった3ケタだったり…。

人妻役の有村架純と大学生役の目黒蓮が出会う街、東京の高田馬場駅前ロータリーは都バスしか乗り入れていないはずが、他社のバスが走っていたり…。

記憶が今も残る大学時代に過ごした街が舞台だったばっかりに、指摘せざるを得ません。製作側からすると、タチの悪い観客に見られてしまったということでしょうね。

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

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