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電気料金引き下げ問題~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

10月12日、岸田文雄総理は総合経済対策の柱として、電力会社に支援金を給付し、電気料金を引き下げる方針を示した。

財政規模は明らかにしていないが、自民党の茂木敏充幹事長や萩生田光一政調会長は、「前年比で2〜3割上昇している電気料金を抑えるため、上がっている分の最低でも半分ぐらいはカバーできる対策が必要ではないか」との見解を述べている。

現在の電力会社全体の売り上げはおおよそ15兆円程度だから、少なくとも1兆5000億円の財源が必要となる。さらに岸田総理は都市ガス料金の引き下げも示唆しているので、財政規模は2兆円程度になるのではないか。

物価高の影響で、家計を取り巻く状況は厳しさを増している。家計を救うための財政出動は、私も絶対に必要だと思う。ただ、今回の電気料金引き下げの仕掛けは、あまりに筋が悪いと考えている。

第一に、制度が不公平であることだ。これから冬場を迎える際に、電気料金の引き下げはエアコンや電気こたつ、電気カーペットなどの暖房器具を使用している世帯には朗報に違いない。ところが、プロパンガス暖房を利用している家庭や薪ストーブで暖を取っている家庭は、暖房費用を抑制するというメリットを受けられない。

第二は、支援がすべての国民に届けられるか不透明ということだ。現在、日本には700社以上の電力会社があり、料金体系もバラバラだ。そこに支援金を入れたとしても、それが値下げに振り向けられるかどうかは分からない。特に、新電力の中には、電力卸売市場の高騰で、経営が厳しくなっているところがたくさんある。政府の支援金がストレートに値下げにつながる保証はないのだ。

一時しのぎではない再生可能エネルギーへ

もちろん、政府もそのことは分かっていて、今回の対策は電力会社への「支援金」であって、「補助金」ではないとしている。そのため、電気料金の引き下げにつながるよう行政指導していくとみられるが、そうなると事務負担的にも時間的にも、困難さが増すことになる。

さらに大きな問題は、今回の電気料金高騰における負担軽減策が、一時しのぎにすぎないということだ。いま電力業界は2つのミッションを抱えている。1つは地球温暖化対策で、温室効果ガスを発生させない発電方法にシフトしていくこと、もう1つは国際情勢に振り回されない電源への切り替えだ。いずれの課題を解決するためにも、再生可能エネルギーへの転換は避けられない。

政府はこの機に乗じて、原発の再稼働、運転期間の延長、そして新増設に向けて一気に走り出そうとしている。しかし、原発は放射性廃棄物を最終処分する目処が立っておらず、またひとたび事故を起こすと、その影響は甚大かつ長期間に及ぶことになる。

私は再生可能エネルギーの本命は、屋根に設置する太陽光発電システムだと考えている。

今回の電気料金引き下げでは2兆円の財政出動が見込まれるが、これを太陽光発電システムの普及に振り向けたらどうなるだろうか。一般家庭の場合、4キロワットの太陽光パネルを設置すれば、年間の電力消費を賄える。東京都によると設置費用は92万円なので、その半額を2兆円で補助すれば、435万世帯を太陽光発電に移行させることが可能だ。いったん設置すれば、少なくとも20年間は電気を自給できるようになる。

物価高の対策は、消費税率の暫定的な引き下げで別途対処することにして、いまは再生可能エネルギー中心の電源構成に取り組むべきではないのか。

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