岸田文雄総理が、長男の岸田翔太郎氏を総理秘書官に起用した。お友達人事を通り越して、完全な身内人事だ。岸田内閣の支持率は急落しており、おおよそ政府寄りの結果が出やすい読売新聞の世論調査でも、不支持が支持を上回った。
政権に「黄信号」が灯るなかで、自分の在任期間のうちに、焦って息子に政治経験を積ませようとしたのかと私は思ったのだが、政治記者によると、そうではないらしい。いまや自民党内の誰も、岸田総理を止められなくなっているというのだ。
衆議院の解散権は、総理大臣が握っている。もし、いま総理が解散を決断したら、自民党の惨敗は目に見えているので、誰も総理に意見が言えなくなっている。内閣支持率の低下が、総理の権力を強めるという何とも皮肉なことが起きているのだ。また、安倍晋三元総理が亡くなったことによって、閣外から岸田総理に圧力をかけられる人が、いなくなってしまったことも、「岸田独裁」が強まった原因だろう。
そのことがもたらす最大の問題は、来年4月8日に任期を終える日本銀行の黒田東彦総裁の後任人事だ。岸田総理は自ら後任を選ぶと、やる気満々だ。いまの下馬評では、日銀の雨宮正佳副総裁と中曽宏前副総裁の一騎打ちだといわれているが、私は中曽氏が選ばれる可能性が高いと考えている。それは、中曽氏が、金融引き締め派だからだ。
融資が有利化で中小企業の危機に
中曽氏を取材した記者によると、実際そこまで強い緊縮派ではないという。事実、中曽氏は黒田総裁の下で、金融緩和政策に協力してきた。ただ、日銀は、都市銀行と同じ軍隊型の組織であり、上官の命令は絶対だ。だから、自分がトップになったときにのみ、その本性が現れる。岸田総理が「金融正常化」という名の金利引き上げを託して、中曽氏を擁立すれば、喜んでその方針に従うだろう。
それでは、金利が上がると何が起きるのか。まず確実に起きるのが、中小企業の大規模倒産だ。これまで日本の倒産件数が低水準に抑えられてきたのは、2年間で42兆円も実行されたコロナ対策の無担保、無利子融資があったからだ。しかし、無利子には3年間という期限があり、そのため来春から次々に融資が有利子化される。コロナ禍で経営が悪化し、元本返済さえままならない状態で金利が上がれば、資金繰りに行き詰まる中小企業が続出するのは、当たり前の話だ。
もう1つ、変動金利で住宅ローンを借りる個人にも大きな打撃が加えられる。例えば3000万円の住宅ローンを金利0.4%、35年返済で借りている人の1カ月の返済額は、7万6557円だが、金利が1%上昇しただけで、返済額は9万392円になる。負担増は、毎月1万3835円に達する。物価高のなかで、返済に行き詰まる国民が続出することになるのだ。
このままだと、日本経済は来春に大きな正念場を迎えることになる。しかも、その危機が早まる可能性もある。独裁を強める岸田総理が、黒田総裁を早期退任させて、新たに中曽氏を頂点とする金融引き締め体制を構築するかもしれないからだ。しかも、日銀総裁の任期は5年間だから、一度体制が築かれると、その影響は少なくとも5年にわたって続くことになる。
残念ながら「令和恐慌」が到来する可能性は、日に日に高まっていると言えるのではないか。
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