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巨人とソフトバンクが育成選手を乱獲!? 背景に「新リーグ」発足の動き

Damir Khabirov
(画像)Damir Khabirov/Shutterstock

巨人とソフトバンクが、ドラフト会議後の「育成ドラフト」で高校球児を乱獲!? その背景に、大学、社会人、独立リーグのチームと連携した「新リーグ」開設の動きがあるという。プロ・アマ交流の本格化で、プロ野球新時代到来か。

ドラフト取材を終えたスポーツ紙記者が、声を潜めて話す。会場の周辺から聞こえてきたのは、セ、パとは別の「新リーグ発足の動き」だという。

「今季のドラフトは、高校通算68本塁打の浅野翔吾外野手(高松商)以外は超目玉選手がおらず、〝不作〟といわれています。代わりに、ソフトバンクと巨人が正規ドラフト後の育成ドラフトで高校球児を10人以上指名するという情報で盛り上げました。支配下登録選手は70人までなのに、両球団とも育成選手が30人を超える見込み。この乱獲に透けて見えるのが、プロアマ共同の新リーグ構想です」

「新リーグ」とは、既存のセ・パの一、二軍のリーグ戦(三軍はリハビリ中心)とは別に、アメリカ・メジャーリーグ(MLB)のルーキーリーグに当たる「四軍」構想。巨人、ソフトバンクの入団3年未満選手が社会人、大学チーム、独立リーグとそれぞれ試合を行い、育成と相手選手の調査を行う新たな戦略だ。

「コロナ禍で企業チームの活動が縮小し、高校、大学球児の受け皿が狭まってしまったという背景があります。一方、育成ドラフトから千賀滉大、甲斐拓也(ともにソフトバンク)や山口鉄也(元巨人)など高卒スター選手が育ち、今季海外FA権を得た千賀はMLB移籍を明言しています。すでに9球団が興味を示し、契約総額は1億ドル(約147億円)超えが予想され、育成選手入団の人気が急騰しているのです」(同)

突出した選手も即戦力は難しい

MLBの30チームは傘下にだいたい5球団(3A、2A、1A+、1A、ルーキーリーグなど)を抱え、多彩なタレントを発掘している。MLBではドラフト1位指名選手でも即一軍はなく、4〜5年かけてメジャー選手に育てるのがセオリーだ。今季、ア・リーグ新記録の62本塁打を放ったアーロン・ジャッジ外野手(ヤンキース)でさえ、2013年のドラフトで1巡目で入団後、傘下の1Aからスタート。3年目(16年)のスプリングキャンプで3Aに昇格し、同年秋にメジャー昇格を果たした。

MLBでは毎年30球団が40巡目まで指名し、1200人以上がドラフトにかかる。ソフトバンクの孫正義オーナーは「日本もファームの裾野を広げた方が費用対効果が大きい」が持論である。側近スタッフが代弁する。

「日本の正規ドラフトの1位指名選手の契約金は1億円、年俸1600万円が相場です。これに、選手によって5000万円ほどの出来高払いが加わります。一方、育成ドラフト組は支度金として約300万円。契約も3年間限定で最低年俸は240万円です。極言すれば、正規ドラフト1位の選手1人分で育成選手全員が賄えるのです。その中から1人化けてくれれば御の字、複数なら大収穫。これこそ、来季から発足する四軍制の狙いです」

プロ野球の二軍は、一軍のバックアップが主目的だ。佐々木朗希(ロッテ)、奥川恭伸(ヤクルト)のように、高校時代に突出した成績を収めた選手であってもすぐには芽が出ない。

今季三冠王の村上宗隆(ヤクルト)や、2年連続で投手四冠に輝いた山本由伸(オリックス)などは極めてレアケース。どの球団も高卒スターの育成に注力するが、大多数は日の目を見ずに去っていくのだ。

準備万端で来季へ

そこで浮上したのが、プロ野球「四軍」と社会人や春秋リーグ戦期間を除く大学チーム、独立リーグ球団の対戦する新リーグ構想。彼らが相手なら、強すぎず、弱すぎず、高卒ルーキーにはちょうどいい。

「社会人野球のオーナー企業はトヨタ、ホンダ、ENEOS、JR東日本、日本生命など、日本を代表する大企業ばかり。しかも関連企業のファンに熱く支えられている。優勝決定戦をプロ野球のクライマックスシリーズ形式で行えば、春夏甲子園、都市対抗に負けない大会に発展する可能性もある。東京六大学、東都、関西学生野球連盟、各地域の大学野球も力を入れる。何より、長年の課題だったプロ、アマ協働の正規交流の持つ意味は重い」(全国紙の社会部記者)

ソフトバンクは今ドラフトで愛知・誉高のイヒネ・イツア内野手を1位指名すると事前公表した。両親ともナイジェリア人という異色球児を抜擢した狙いは、この新リーグ計画の牽引役であることにもつながる。

呼応するように、巨人にも微妙な動きが…。

今、NPBでは静岡市を本拠地(清水庵原球場)に二軍球団を新設する計画が進行している。一軍を持たない二軍のみの球団は初。承認されれば13番目の球団となりイースタン・リーグ加盟を目指しているという。

この案件は9月21日のオーナー会議で話し合われ継続審議となったが、後押ししているのが巨人の山口寿一オーナーなのだ。

「日本のプロ野球は、二軍チームを2つ持つことができない。そこで巨人がサブブランドのセカンドラインを狙っている。二軍単独チームを作っても、一軍に選手を輩出しなければビジネスとして成り立たない。しかし、ファーム限定の支配下登録は前例がなく、育成選手の金銭トレードも可能なはず。でなければ、球団を設立しても持続は難しい。形を変えた〝巨人の四軍〟だ」(巨人OBの解説者)

原辰徳監督の続投が決まった巨人は、桑田真澄一軍投手チーフコーチをファーム総監督に配置転換したが、新たなミッションの指揮を執らせる。現役引退後に早大大学院、東大大学院で投球フォームなどの動作を解析。東大野球部や桜美林大の特別コーチとしてアマチュア指導に携わったキャリアに新リーグの成功を託しているのだ。

日本シリーズ出場を逃した巨人とソフトバンクだが、来季の日本一奪回に向けてしっかり準備を整えている。

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