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北朝鮮“女帝”が乱発するミサイル実験…真の狙いは“日本の原発”と“米国グアム基地”か

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(画像)GAS-photo/Shutterstock

9月25日以降、北朝鮮が立て続けに弾道ミサイルを発射している。金正恩総書記の父親、金正日総書記の時代に発射した弾道ミサイルが、17年間で16発だったことに比較すると段違いのペースだ。

「正恩氏の体制になってから通算100発を超えているでしょう。2018年6月、シンガポールで米朝首脳会談が開催された際、正恩氏はトランプ大統領(当時)に『ロケットマン』と揶揄されましたが、その冠を再び戴いたことになります」(日本の外交関係者)

こうしたミサイル連射について、さる軍事ライターは「従来とは異なる特徴がある」と指摘する。

「まず、米韓合同演習の実施中や日米韓による対潜水艦作戦の訓練中に、弾道ミサイルを発射したのは初めてのことです。次に北朝鮮は、米高官の訪韓時には挑発を控えてきたのですが、今回の一連の発射は、まさにハリス副大統領が訪韓し、9月29日に尹錫悦大統領と会談した時期を狙ったものでした」

9月29日と10月9日、夜間にミサイルが発射されたことも注目に値するという。

「ミサイルの開発段階では、安定的な環境で発射実験をするものですが、実戦では昼夜や天候を選んでいる暇はない。つまり、夜間の発射は実戦配備を終え、奇襲攻撃を前提にしていることを意味します」(同)

日本の原発を狙う可能性もある

正恩氏は、なぜここまで緊張を高めているのか。10月4日に発射され、5年ぶりに日本上空を通過した中距離弾道ミサイル(IRBM)は、新聞報道などによると『火星12』の可能性が高い。発射地点が把握しにくい液体燃料を使い、その射程からグアムの米軍基地を標的とするミサイルだ。

「北朝鮮は米国のバイデン政権を軽んじ、『核による脅しに弱い』とみています。ミサイル発射を実戦形式で繰り返し、核攻撃の能力を高めることで、米国に対して優位に立てると算段しているのです」(同)

北朝鮮による4日のIRBM発射では、相次ぐ挑発への制裁措置を協議するために、国連安全保障理事会(安保理)が緊急招集されている。しかし、中国とロシアの反対で対北朝鮮制裁はおろか、糾弾声明の採択すらできなかった。

しかも、北朝鮮はニューヨークで安保理が開かれているさなかに、短距離弾道ミサイル(SRBM)を発射した。北朝鮮は中露の擁護の下、現状の国際社会で最も拘束力のある安保理ですら、「張り子の虎」とばかりに完全無視を決め込んでいるのだ。

北朝鮮の国営メディアは10月7日、ロシアのプーチン大統領が70歳の誕生日を迎えた際、正恩氏が祝電を送ったと伝えている。

「ロシアの苦戦が続いているとはいえ、NATO(北大西洋条約機構)諸国がウクライナに直接的な軍事介入を果たせないのは、ロシアが核兵器の使用をチラつかせ、ザポリージャ原子力発電所を砲撃するなど、強硬姿勢を貫いているからです。これにはIAEA(国際原子力機関)も完全に腰が引けていますから、北朝鮮が日本の原発を狙う可能性はゼロではありません」(国際ジャーナリスト)

執拗にミサイル発射を繰り返す

今年4月、環境経済研究所は日本の原発が攻撃された場合の被害を試算し、それらをまとめた「事故シミュレーション」(8月改定)を公表した。

「首都圏で最も甚大な被害が出るのは、東海第二原発(茨城県)が武力攻撃を受けて燃料プールが破損したケースです。避難民は数百万人以上になるとみられ、長期的に約37万人の死者が出ると報告されています」(危機管理アナリスト)

こうした非常事態を想定するときには、正恩氏の実妹である金与正党副部長の存在が重要になってくる。与正氏は2021年秋、国家最高の政策決定機関である国務委員会の委員に、弱冠35歳で大抜擢されているが、すでに軍を掌握しているという見方もあるからだ。

「例を挙げれば、今年8月10日に開かれた全国非常防疫総括会議で、演説に立った与正氏は正恩氏のコロナ罹患をにおわせる発言をしました。これは国家機密の暴露に当たり、通常なら軍から激しく叱責されてもおかしくありませんが、事態は逆で、会議に出席していた将軍たちは感涙していたのです。これは少なくとも与正氏が、軍幹部から信頼されていることの証左と言えます」(前出・国際ジャーナリスト)

端正な顔立ちに似合わぬ発言の激烈さから〝女帝〟と呼ばれ、かつて南北共同連絡事務所を爆破した与正氏なら、弾道ミサイルを撃ちまくっているのも納得だ。

「与正氏は経済制裁が緩和されることもなく、今日に至っていることにはなはだ立腹しています。そのため、米国が早く対話の席に着くよう、執拗にミサイル発射を繰り返している。さらに与正氏は、バイデン政権がロシアのウクライナ侵攻に際し、早々に軍事介入しない方針を打ち出したことで、『米国を核兵器で脅しておけば、小規模の戦争(大規模な挑発行為)には目をつぶる』と高をくくっているのです」(同)

「ロケットマン」に続いて、北朝鮮に「ロケット・ウーマン」が誕生したようだ。

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