今年に入り、大手トラックメーカーが相次いで電気自動車(EV)の新型トラックの発売や、その準備に乗り出し、業界は「EVトラック元年」の様相だ。
まずは三菱ふそうトラック・バス(川崎市)。EV改良新型トラック「eキャンター」を2023年春を目途に発売する。トラックメーカー関係者が解説する。
「17年に発売された『eキャンター』は騒音が少なく、神奈川県厚木市ではごみ収集車として導入されています。その現行型を改良したのがEV新型『eキャンター』です。現行型では車両総重量7.5トンのみの一択でしたが、国内向けは5トンから8トンと幅をもたせ、航続運転距離も最大100キロだったのを最大200キロまでと大きく伸ばしています」
価格は非公表だが、リースと販売型の2通りが有力だ。
いすゞ自動車(横浜市)は今年度中にEVトラックの量産を目指す。自動車アナリストが言う。
「19年から『エルフEV』を埼玉県三郷市でコンビニの配送トラックのほか、宅配やゴミ収集などにも運用し、大きな成果を上げています。これを踏まえ、いすゞでは今年度中には量産化に踏み切る構えのようです」
日野自動車(東京)は、宅配用の「日野デュトロZ EV」の販売に動く。物流業界関係者は語る。
「巣ごもり需要の影響もあり、国内の宅配便取扱個数は19年の約43億個が20年には約48億個へと急増し、運送業界では圧倒的なドライバー不足に陥っています。日野が普通免許でも運転できる小型EV『日野デュトロZ EV』の開発を急いだのはそのためです。主婦層でも手軽に運転できる上、荷台を低くしたため、積み降ろしも楽。エンジン不正問題からの失地回復を図りたいところです」
車種変更の理由はさまざまあれど…
大手自動車メーカーがこぞってEVトラックの製造や販売に乗り出すのには理由があるという。自動車アナリストが解説する。
「1つはパリ協定です。2015年に国連主導で採択され、地球温暖化対策が必須となりました。今や二酸化炭素排出のガソリン車とディーゼル車の販売を禁止し、EV車に切り替えるのが世界のモード。日本も2035年までに新車販売を電動車のみにすると発表したのです」
日本では「ハイブリッド車、EV、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)を含む」という条件付きではあったものの、乗用車はもちろん、運送業者間でも急ピッチでEVトラックへのシフトが始まったのだという。
「もう1つは、宅配自動車分野に海外メーカーが参入し、国内トラックメーカーを脅かし始めた影響です。その筆頭が佐川急便。中国製で最高速度100キロ、航続距離200キロ以上、最大積載量は350キログラムのEVトラック7200台の導入を決めたのが大きい」(同)
昨年佐川から公表された計画によれば、企画や設計は日本のEVベンチャー企業のASF(東京)が担い、生産は中国の広西に本拠地を置く広西汽車集団傘下の「柳州五菱汽車」が行うという。
「佐川の場合、まるきり中国車を輸入しているわけではなく、『中国製EV車』として扱うのは間違いだという論者が多い。ですが、日本のメーカーと価格的に折り合わず、中国での生産になったはず。表現はともかく、中国から日本のEV市場への本格参入に他なりません」(同)
佐川同様、自社工場を持たずに委託するファブレス方式によって、中国工場で生産したEVトラックを導入した例としては、物流会社のSBSホールディングス(東京)がある。
海外に奪われる前に対策を
SBSは昨年10月、京都のベンチャー企業フォロフライが中国で生産したEVトラックの導入を決めた。EC(電子商取引)でのラストワンマイル(利用客への配達)向け車両約2000台を、今後5年程度でEVに置き換える予定だという。最終的にはグループ会社の車両を含め、1万台前後で中国生産のEVを導入する計画だともいう。
ヤマト運輸も一時ドイツメーカーと組み、ドイツ製EVトラックの導入に動いた。物流アナリストが言う。
「国内では、ラストワンマイルの小型EVトラック競争が激化すると見られています。今後は大型トラックのEV化をどう図るかも大きなテーマになるでしょう。最大の問題は、航続距離をどう延ばし、また充電体制をどう整えるかです。ネックになるのが価格。国内のトラックメーカーの価格が高ければ、海外勢にシェアを根こそぎ奪われてしまいます」
海外メーカーでは、スウェーデンのボルボが今年、EVトラックの「VNRエレクトリック」の改良新型を発表、航続距離を最大440キロとし攻勢をかける。
他方、イーロン・マスク率いる米テスラの航続距離800キロを誇るEVトラック「セミ」は今年納車が始まるという。
そして中国国内で急速に伸びている大型EVトラックは小型EV同様、日本市場を虎視眈々と狙う。
海外メーカーも巻き込んだ「EVトラック元年」はまだまだ波乱含みだ。
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