『川っぺりムコリッタ』
監督・脚本/荻上直子
出演/松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかり、江口のりこ、黒田大輔、知久寿焼、北村光授、松島羽那、柄本佑、田中美佐子、薬師丸ひろ子、笹野高史、緒形直人、吉岡秀隆
配給/KADOKAWA
長いコロナ禍で、人との関係性が「密」ならぬ「疎」になったといわれますが、実のところ、都市部ではコロナ前から隣人関係の希薄化がいわれ続けてきました。
自分もそもそもの性分として、人と密接な関係を築くことに消極的なほうです。だから本作で、妙に距離の近い住人たちが住むアパートに引っ越してきた主人公、松山ケンイチの戸惑いはよく分かります。
しかし、心底、孤独を好んでいるかというとそうでもなく、お互いに心を許し合う関係にどこかで憧れているのも、自分と同じ。思えば、隣人のみならず、仕事で出会った方々との、ちょうどいい距離感というか、落としどころが分からないまま、この年まできてしまったように思います。本作は、そんなコミュ障気味の方が自分に置き換えて、望ましい距離感とは、を考えてみる材料になるのでは。
さて、見ていて気付いたことは、本作は黒澤明監督の『どですかでん』の令和版ではなかろうかということです。『どですかでん』は黒澤映画の中でも異色の作品で、共通の街に住む底辺にいる人々のエピソードを同時進行で描くオムニバス映画です。
誰かと過ごす生まれてから死ぬまでの時間
本作の荻上直子監督がオマージュしているとはっきり分かったのは、吉岡秀隆演じる墓石の訪問販売人とその小さな息子。この父子の独特の関係性といい、台詞まわしといい、『どですかでん』に出てくる三谷昇と子役が演じる物乞いの父子のまんまなんです。
社会的弱者である男が、子供に対しては父であり続け、その父に従順な息子。これは明らかにオマージュではないか、と見破ると、また違う面白さが出てきます。
例えば、アパートの大家さん役の満島ひかりが、亡き夫の骨を隠し持ち、時々それを体内に入れて慰める妖艶なシーン。あの俯瞰での撮影方法なども、黒澤映画と繋がって見えてきます。
しかし、本作はそこから一歩進めて、心のどこかで人との繋がりを渇望する現代人を象徴して描こうとしたのではないか、荻上監督に種明かしを伺ってみたいものです。そうそう、ラストの松山ケンイチの父親の野辺送りのシーン。これは昔あった『サントリーローヤル』のCMで、珍妙な音楽を奏でながら行進する大道芸人たちを彷彿とさせて、隠し味が効いています。
本作の題名の『ムコリッタ』とは、仏教における時間の単位で1/30日を表すそう。その曖昧で割り切れない感じが、「人は一人で生まれて一人で死んでいく」、その間にある時間を、誰とどうやり過ごすかという命題を突きつけられたようにも思いました。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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