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北朝鮮“非核化”提案を一蹴!米国の「韓国疲れ」が『危険な徴候』!?

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日本は対極東ロシア軍に最重点を置き、北海道に陸上自衛隊の戦車部隊などを配備してきたが、近年は台湾有事に備えて南西地域へと意識が向かっている。その理由は「米軍の極東アジア戦略の中心は、もはや朝鮮半島ではなく台湾に移った」(自衛隊関係者)ことに呼応するためだ。

ところが、韓国の尹錫悦大統領は、この米軍の翻意に気づいていないという。

「尖閣諸島の領有を脅かされている日本と異なり、韓国には直接的な中国の脅威を懸念するムードがありません。ただし、在韓米軍が朝鮮半島以外の地域での紛争に、F16戦闘機などを投入する場合の補佐的役割については議論されています。しかし、実際には北朝鮮の脅威に備える必要性や在韓米軍の編成上、その可能性は低いでしょう」(軍事アナリスト)

尹氏は8月22日、朝鮮半島有事を想定した米韓合同軍事演習『乙支フリーダム・シールド(自由の盾)』を予定通り開始した。

「北朝鮮は当然のことながら、合同演習に反発しました。金与正党副部長は、尹氏が15日の演説で対北朝鮮支援の構想を表明した翌日、韓国軍が合同演習の事前訓練を始めたことを『破廉恥だ』と批判、その2日後の17日に巡航ミサイル2発を発射しています」(同)

まだ韓国の後ろには米国がいるのか!?

尹氏は「大胆な構想」と称して、北朝鮮が非核化と開放を進めれば、10年以内に1人当たりの国民所得が3000ドルに達するよう、段階的に経済支援するという提案を発表していた。

「これについても与正氏は『大洋を乾かして桑畑を作るのと同じぐらい実現不可能』と一蹴し、この提案は2008年に李明博元大統領が打ち出した〝非核・開放3000政策〟のコピーにすぎない』と揶揄している」(外交関係者)

北朝鮮は非核化についても、リビアのカダフィ大佐が約10年前、核開発を放棄したがゆえに失脚したと分析しており、現在のウクライナも核兵器を捨てた結果、ロシアの侵攻を招いたと考えている。

「停戦中とはいうものの、戦争相手国から非核化を条件に経済支援を提案されたら、与正氏でなくとも首を傾げるでしょう。そして、直後の22日に軍事演習に入ったわけですから、提案の時期もずれていると言わざるを得ません」(同)

自力で北朝鮮と対峙できない韓国が、壮大な構想のみを提示するとは荒唐無稽な話だが、尹氏は後ろに米軍が控えていること、また北朝鮮が頼りにするロシアがウクライナで苦戦しているとみて、このような態度に出たのだろう。

だが、「韓国疲れ」という言葉に代表されるように、米国には韓国は面倒くさい国だという認識がある。文在寅前大統領の時代にそれは頂点に達したが、代わった尹氏の外交感覚にも違和感と失望感が広がっているようだ。

「トランプ前大統領の時代、板門店で三度目の米朝首脳会談を開催した際に、一緒に参加したがっていた文氏を加えなかったことで、北朝鮮問題における韓国の地位は大きく低下しました」(韓国ウオッチャー)

自国の戦力に自信を持った!?

時をほぼ同じくして、横田基地を韓国防衛の主目的として使う米軍は、朝鮮半島の軍事的重要性の低下と相まって「横田空域」の一部を日本に開放した。また、2017年にはソウル市内に残していた在韓米軍の基地を、郊外の『キャンプ・ハンフリー』に統合している。

「ワシントンの米軍関係者によれば、『それぞれに事情はあるが、北朝鮮が対話可能な国になった今、韓国に対して手厚すぎる保護は不要だという発想が常態化している』ということです。こうした米国の北朝鮮観は、朝鮮戦争前夜と非常に似ており、危険な兆候ではないでしょうか」(同)

1950年、米国のディーン・アチソン国務長官は、「米国が責任を持つ防衛ラインは、フィリピン、沖縄、日本、アリューシャン列島までだ。それ以外の地域は責任を持たない(アチソンライン)」と発言した。これを当時の北朝鮮が、米国は朝鮮半島に介入しないと解釈し、韓国に侵攻した経緯がある。

「バイデン大統領にとって最重要の外交案件は、中国の習近平国家主席との駆け引きです。その中で韓国カードを捨てるのはやむを得ない判断でした」(同)

最近の北朝鮮は、一連のミサイル発射を公表しなくなった。おそらく、手の内にある軍事機密を見せる必要がないと判断しているからだ。これはつまり、米国に重要視されない韓国を与しやすいと考えているからで、同時に自国の戦力に自信を持った証左でもある。

「北朝鮮が、わざわざ金正恩総書記の高熱を公表し、コロナ勝利宣言を行ったのは、11月7日の革命記念日にロシアを訪問して、その後に核実験を行う布石なのでしょう。中国が台湾に侵攻した場合、北朝鮮は米軍への陽動作戦として、韓国に何らかのアクションを起こすかもしれません」(前出・軍事アナリスト)

東アジアの「新冷戦」が「熱戦」に転じる可能性は、徐々に高まっている。

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