4週間前に予想した通り、新型コロナウイルス感染症の第7波は爆発的に拡大してしまった。WHO(世界保健機関)の発表では、8〜14日の1週間の感染者数は4週連続で世界一となり、国内での累積の感染者数も1600万人を超えた。
岸田政権は経済を優先するために、あえて強い対策をしなかったのだが、それには医療崩壊を起こさないという重要な前提条件があったはずだ。しかし、そうはならなかった。発熱外来はほとんど予約が取れず、大都市の自治体は、住民に自己診断を要請せざるを得ない状態に陥った。
ところが、自己診断しようにも検査キットが不足して、入手が困難になっている。さらに病床のひっ迫も深刻で、神奈川県の病床使用率は8月9日に98%に達した。救急搬送も受け入れ先が見つからないケースが頻発している。
一方、一律の行動制限がないお盆は、コロナ前の盛り上がりとはほど遠い状況だった。感染を恐れた国民が自主的に遠出を控えたからだ。東海道新幹線の下りのピークとなった8月11日は、朝方に自由席の乗車率が140%となった列車もあったが、午後になると指定席の空席が目立つようになり、乗客数はコロナ前の6割程度にとどまった。
そうした中で、東京商工リサーチが発表している新型コロナ関連の経営破たんも、今年は7月までに累計1207件と前年同期比で30%も増加している。
結局、政府の「ウィズコロナ戦略」は完全な失敗に終わったことになる。やはり、いくら経済優先といっても、医療体制を維持できるレベルには感染を抑えなければならない。私は、実際にそれが可能だったと思う。
必要だったのは検査とワクチンの基本対策
対策の1つは、検査体制の拡充だ。例えば、検査キットを全国民に配布しておけば、陰性を確認したうえで外出することができたはずだ。もう1つは、ワクチン接種の対象拡大だ。政府は4回目接種の対象を60歳以上の高齢者、基礎疾患のある者、そして医療従事者などに限っていて、一般国民は対象にしていない。
さらに問題なのが、3回目から5カ月経過後という接種時期の基準にこだわったことだ。驚くことに、その基準は医療従事者にも適用されている。従来型ワクチンの感染予防効果は2カ月程度しか続かない。それがほぼ分かっているのに基準を変えなかった理由は、短期間での再接種における治験データがないからだという。しかし、常識で考えれば、前回接種から5カ月未満での再接種が危険だとは思えず、医療従事者の4回目接種を遅らせたことが、医療崩壊に拍車をかけたとみて間違いないのだ。
なぜ、岸田政権が検査とワクチンという感染の基本対策を怠ったのか。私は、財政緊縮が原因だと思う。
検査キットの単価を1500円として、国民全員に2つずつ配布すると3745億円、4回目ワクチンを一般国民にも拡大した場合、接種単価を4500円として2645億円となる。費用は合計で6390億円にすぎない。つまり、岸田政権は1兆円にも満たない財政出動を回避したことで、医療崩壊と経済失速を招いたことになる。
2025年度に「基礎的財政収支」を黒字化する目標にこだわり、景気対策に手をこまねいている岸田文雄総理は、「財政緊縮では財政事情を好転できない」という世界の常識を知らないのだろうか。
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