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“争奪戦”ぼっ発の高級腕時計ブーム〜企業経済深層レポート

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企業経済深層レポート (C)週刊実話Web 

日本では今、高級腕時計ブームが過熱している。時計メーカー関係者がこう明かす。

「お笑いコンビ『アンガールズ』の田中卓志がフジテレビの番組企画で400万円弱で購入させられた腕時計が『1000万円に高騰している』とラジオで興奮気味に話していました。共演していたケンドーコバヤシも『プライベートで200万円で買ったやつが1200万円になった』と。ちょっと見回しただけでも高級腕時計はミニバブルの様相です。人気の品は入荷すると即完売という小売店が日本全国で続出しているのです」

具体的にどれほど伸びているのか。日本に大量の高級腕時計を輸出しているスイスの時計協会の統計からも、その伸び具合は歴然だという。商社関係者が解説する。

「今年1月のスイスから日本への腕時計の総輸出は、金額ベースで日本円で約138億5270万円で、前年同月比より8.9%増加しています」

同様の傾向は別の統計でもうかがえる。一般社団法人日本時計協会(東京)によれば、2021年の日本の時計の市場規模は腕時計が約7140億円で、前年比で15%も増えている。数量では前年比5%減のため、裏を返せば高級腕時計の売れ行きが伸びていることになる。

なぜ高級腕時計が売れているのか。時計小売関係者がその背景を解説する。

「コロナ禍で海外旅行などに行けなくなり、新たなお金の使い道として高級腕時計が注目されました。チャンスがあれば購入したいと思っていた人々が余裕資金を得て、高級腕時計に飛びついているのです」

転売が多く即買い不可に

また近年の時計技術の進歩の影響を指摘するスポーツトレーナーもいる。

「ランニング用や登山用に衛星測位システム(GPS)機能や心拍数の計測機能が搭載されるなど、利便性が格段に増しています。時計に興味を抱く人々の裾野が広がったのです」

一方で転売目的で時計に投資する人も増えているという。時計小売関係者はこう話す。

「高級腕時計といえば、真っ先に思い浮かべるのはスイスのROLEX(ロレックス)。最も人気なのが、カーレーサーのために作り出された『デイトナ』です。正規販売価格で160万円前後ですが、中古ショップに転売すれば600万円前後になるため、転売目的で手に入れようとする人が後を絶ちません。とはいえ、正規店で即買えるシロモノでもなく、ロレックスも転売防止で厳しい販売制限をかけています。運が良ければ購入できますが、取り置きや予約はできないのです」

商品を求めて、いくつもの正規店を何度も訪れる時計愛好家や投資家が急増している。この客の行動を総称して『ロレックスマラソン』や『デイトナマラソン』という言葉も生まれたほどである。ほかの高級メーカーも、ほぼ同様の活況を呈している。

転売目的の投資家が高級時計を狙う理由がもう1つあるという。

「投資といえば株や土地、マンションなどがありますが、不確実性も高く、特に土地やマンションは管理に手がかかり持て余す恐れも。その点、腕時計は小さく、しかも最近では利幅が宝飾品をも超える勢いとなれば、投資家が狙うのも当然でしょう」(同)

百貨店内での売り上げもアップ

高級腕時計の売れ行きの実情について、経営コンサルタントが語る。

「東京の銀座、大阪の心斎橋は、多くの高級店や世界的な時計メーカーの店舗がひしめく世界屈指の激戦区です。ところが最近では高級腕時計の新メッカとして注目されているのは名古屋です。言うまでもなく、名古屋はトヨタ自動車本社など大手メーカーの本拠地で、富裕層も少なくありません。実は名古屋周辺の富裕層は、美術品や骨董品、焼き物など一級品に興味を持つ人が多く、彼らが高級腕時計に魅かれているのです」

この名古屋周辺の活発な購買意欲を意識して、デパートの時計売り場などでは施設のリニューアルや拡充が急ピッチで進んでいる。

大手百貨店の大丸松坂屋グループの松坂屋名古屋店の場合、21年度の時計の売り上げはコロナ禍前の19年度比で14%も伸びている。

「名古屋店の伸び率は全国の大丸や松坂屋の中でもトップの成績です。その勢いで同店では時計売り場をリニューアルし、倍の広さに拡張。その記念としてスイスでも有名な時計師が手掛けた1億8150万円の腕時計を展示し、話題となりました」(同)

時計小売関係者が言う。

「世界の三大時計ブランドといえば『パテックフィリップ』と『オーデマピゲ』、『ヴァシュロン・コンスタンタン』。いずれもスイスに工房を持つ高級メーカーですが、その一つ『パテックフィリップ』が名古屋栄三越の1階に単独店を構えました。いかに名古屋に力を入れているかという証しです」

ちなみに冒頭のアンガールズの田中が購入した時計も「パテックフィリップ」。潜水艦名に由来するスポーツウオッチ『ノーチラス』シリーズだという。

「高級腕時計」ブームにまだまだ陰りはなさそうだ。

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