鎮魂の夏。終戦の日や広島・長崎の原爆の日を迎える8月は、毎年テレビ各局で戦争特集の番組が放映されてきたが、近年は事情が変わってきたようだ。
在京キー局の社員が語る。
「民放各局が『戦争特番』の放送を見送るようになったのです。特に今年は皆無と言っていい状況。これまでは、事実関係を追及・発掘するドキュメンタリーと、戦争の悲惨さを伝えるドラマの制作は夏の至上命題でした。戦争関連の番組は、戦火を潜り抜けた年配の方々の需要が高く、一定の視聴率が見込まれるので、テレビ局としては手堅いコンテンツだったんです」
しかし、テーマが重いだけに入念な取材などが求められ、制作費が高額になりがちなことがネックになっていたという。
「もともと進んでいた視聴者のテレビ離れに加え、円安不況とコロナによる広告収入の激減で、戦争特番の制作は重荷になってきているんです」(同・社員)
高齢存命者もコロナ感染を恐れて取材NG
確かに、終戦記念日の8月15日の番組表には、ゴールデンタイムで戦争関連番組を放映する民放は見当たらない。
「戦後77年を迎え、戦争を知る多くの人たちが亡くなってしまい、年々、取材が困難になっているという背景もあります。同時に、その世代の視聴者も減っているため、視聴率も期待できない。戦争をテーマにしたドラマなども、描く視点によっては出演者までSNSで一般人に叩かれる恐れがあるため、色がつくことを懸念して大物俳優に断られるケースも出てきました」(同・社員)
こうした事情は、戦争ドキュメンタリーに定評のあるNHKでも同じだという。
「戦争経験者に取材したいのですが、みなさん高齢なのでコロナ感染を危惧して取材を断られるのです。それでも新聞社さんは電話取材などで対応できますが、われわれテレビ業界は〝絵〟がないと放送できない。当事者の現在のインタビュー映像はほとんど撮れず、当時のフィルムやCGでつなぐので、いっぱいいっぱいです」(NHK子会社の関係者)
そもそも、これだけ毎年やり尽くしてきたので、新たなエピソードや歴史的な新事実をなかなか発掘しにくいという事情もあるようだ。
現在の平和の礎となった尊い犠牲を後世に伝える社会的役割を担う戦争特番。それが、カネやコロナ、SNSといった世知辛い事情で茶の間から消えていくのは、なんとも寂しい。
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