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相変わらず後手に回るコロナ対策~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

新型コロナウイルス感染者が急拡大している。7月15日の全国の新規感染者数は10万人を突破した。10万人を上回ったのは、第6波のピークだった2月5日の10万5587人以来の事態だ。

政府は、まん延防止等の行動制限を課す構えを見せていないが、それはある意味で仕方がないかもしれない。1つの理由は、行動規制の効果が小さくなっていることだ。

愛知県立大学の清水宣明教授によると、オミクロン株の主要な感染経路は、空気感染だ。そのため、飛沫感染が主要経路だった第5波までと比べて、飲食店の営業制限が持つ意味が小さくなっているのだ。

もう1つの理由は、コロナ対策で企業が受けた42兆円もの無利子・無担保融資が、3年の期限を経て有利子に変わることだ。このタイミングで行動規制をかけると、倒産が続発してしまうことになる。

ただ、仮に行動規制に踏み切れないとしても、感染者数の抑制は重要だ。オミクロン株の死亡率が低いとはいえ、これだけ感染者数が増えれば、死亡者数が増えるからだ。

実際、感染第6波の死亡者数は1万2000人を超えている。また、経済面から見ても、感染者数が増えれば国民自ら行動を自粛してしまうので、経済的な被害は大きくなるのだ。

従来型ワクチンからオミクロン株用へ

今回、政府の対策は、明らかに遅かった。愛知県の大村秀章知事は、すでに6月21日に「感染第7波」への突入を宣言していたが、政府は7月上旬の時点で、まだ第7波と認定していなかったのだ。

それでは、6月下旬の時点で政府は何を行うべきだったのか。まずやるべきことは、すでに開発されているオミクロン株用のワクチンを調達することだった。しかし、政府はそうした動きを一切してこなかったので、いますぐ調達するのは難しい状態にある。そうなれば、従来株用のワクチンを打つしかない。

ハーバード大学の研究によると、オミクロン株の亜種「BA.5」はワクチンの感染予防効果が3分の1に落ちるという。しかし、それはまったく効かないということではなく、接種直後の中和抗体が非常に多い時期であれば、一定の効果は得られる。

ところが、従来型ワクチン供給に余裕があるにもかかわらず、政府は7月14日になるまで、4回目接種の対象者を限定し、3回目接種から5カ月が経過した60歳以上の高齢者と、18歳以上の基礎疾患のある人に定めていた。

ようやく医療従事者や高齢者施設の従事者に拡大したが、例えば前回の接種から2カ月経過した希望者には、誰でもワクチン接種が受けられる体制を採るべきである。そうして感染爆発を先送りしつつ、オミクロン株用のワクチンを確保するのだ。

実のところ大村知事は、ワクチン接種の対象拡大を早くから訴えていた。しかし、政府はその声を無視し続けてきたのだ。

第1波から第6波まで、日本のコロナ感染者数は、常に前の波を上回ってきた。今回の感染第7波の規模を第6波以下に抑えることができなければ、新型コロナの終息がまったく見通せないことになる。いつまでも、コロナとの共存などしていたら、それこそ日本経済は致命的な打撃を受けてしまうだろう。

後手後手で、非科学的な対策を小出しにするというやり方が、どれだけの被害をもたらすのかは、この2年半の経験で分かったはずなのに、またしても感染が急拡大している。

日本のコロナ対策は、まったく進歩していないのである。

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