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高品質な眠りが日本人を救う「睡眠市場」〜企業経済深層レポート

企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

睡眠障害の改善や睡眠の質を高める、いわゆる「睡眠市場」が急成長している。

ある小売店関係者が言う。

「ヤクルトが去年から販売している『ヤクルト1000』が今、品切れ状態です。メーカーも嬉しい悲鳴を上げており、秋に向け増産体制を急ぐとか。この品薄の原因は、飲めば睡眠の質の向上やストレスの緩和に効果ありという機能性表示食品をうたった点。その評判がSNSで『よく眠れる』『ストレスが緩和される』と広まり、爆売れ中です」

市場調査をする富士経済によれば「ストレス緩和」「睡眠サポート」機能をうたう飲食料品は『ヤクルト1000』に限らず全体的に伸びているという。その市場規模は、2019年の約104億円から22年は3倍以上の331億円に伸びると予測されている。

「睡眠市場」が伸びているのは飲食料品だけではない。「スリープ(睡眠)」と「テクノロジー(技術)」を組み合わせた市場、つまりITやAIなどの最新技術を使って睡眠の状態をモニタリング・分析・改善するための製品やサービスを提供する「スリープテック市場」というものがある。

この市場に参入する企業は年々増加しており、国内市場調査のシードプランニング(東京)によると21年の市場規模は4600億円。寝具などを含む睡眠関連全体の市場は、1兆6200億円というから驚きだ。

睡眠不足は抵抗力が落ちる

では、なぜこれほどまでに「睡眠市場」が伸びているのか。医療関係者がこう指摘する。

「最近、慢性的な睡眠不足が心身に多大な悪影響を及ぼすことが分かってきました。睡眠は、自律神経・ホルモンバランス・免疫機能の調整や記憶の定着、脳の老廃物の除去といった重要な役割を果たします。睡眠不足が続くと、肥満や糖尿病などの生活習慣病のほか、認知症のリスクも高まることが判明。さらに睡眠不足は、コロナの予防に不可欠な抵抗力をも著しく低めてしまうのです」

ところで、先進国を中心としたOECD(経済協力開発機構)の加盟国中、主要国で最も睡眠時間が短いのは日本で7時間22分だという。また、米シンクタンクのランド研究所の16年試算では、睡眠不足がもたらす経済損失は日本の場合、対GDP(国内総生産)比で約15兆円。裏を返せば日本の「睡眠市場」の伸びしろが大きいということだ。

では、この伸張市場に各日本企業は、具体的にどうチャレンジしているのか。

国内大手メーカーのパナソニック(東京)は、エアコンに力を注いでいる。家電量販店関係者が言う。

「就寝時のエアコンの悩みが『冷えすぎ』。従来のタイマーでは切れたときに熱帯夜になってしまう。この問題を解消するために今年1月に発売したのが、寝室用エアコン『エオリア スリープ』です。特徴はリモコン以外にベッドサイドセンサーが付属し、それが睡眠時の快適温度を夜通し保ってくれるため人気です」

また、パナソニックは寝具大手の西川(東京)と共同で、家電とマットレスを連携させ、睡眠の質の可視化により寝室環境を整える『快眠環境サポートサービス』を提供している。家電量販店関係者が言う。

「センサー搭載のマットレスとアプリを連携させ、利用者の呼吸などから睡眠時間や睡眠状態などのパーソナルデータを収集。それに基づいてエアコン・照明器具を制御することで、快適な眠りが得られる仕組みです。このサポートは、すでに新規受付は終了しましたが、両企業ともこのサービスで手応えを得て、今後はさらに進化した睡眠サポートを行う可能性が高まっています」

アスリートに人気の寝具

一方、西川の寝具といえば、やはりメジャーリーガーの大谷翔平が愛用し、CMにも起用されているマットレス『エアー』だ。寝具業界関係者が言う。

「1日9時間の睡眠でコンディションを整える大谷選手にとって、睡眠は最重要ポイント。その大谷選手自身が愛用する西川のマットレス『エアー』は、凸凹面で血流がよくなり肩こり、腰痛にもよく、横向き睡眠もOK。しかも、寝ると浮遊感に包まれるという証言が多数寄せられている優れものです。こうした大谷選手の一推しもあってか、前年比160%(21年2月〜6月)と販売も好調です」

西川とともにアスリートに人気が高いのが、エアウィーヴ(東京)だ。北京冬季五輪では、日本選手団にマットレスパッドなどを提供し、選手の睡眠を支えた。寝具業界関係者が言う。

「こちらも浅田真央やプロテニス選手の錦織圭などが愛用するマットレスとして知られています。独自素材のエアファイバーを採用し、高反発で寝返りが楽、通気性もよく、夏は蒸れずに自由に洗える。21年12月期は前年同期比7%増の195億円と右肩上がりです」

そのほかロート製薬やDeNAなど、社員に睡眠セミナーを実施する大手企業も増えている。経営コンサルタントが言う。

「社員の睡眠の質の改善や長時間睡眠が、企業の経営力アップに貢献することが認識されつつあるのです」

優秀な人材、強いアスリートほど「よく眠っている」というわけか。

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