俺は1995年の参議院議員選挙に埼玉県選挙区から出馬したことがあるんです。当時、埼玉県所沢市に自宅があり、近所の喫茶店へ行くと女性3人の話し声が聞こえてきた。2人がシングルマザーで子どもを預ける施設に困っていた。「夜はスナックで働いているけど、その間、子どもを預ける施設の料金が高い」などと愚痴っていました。そんなに大変なんだと、その時は思ったんです。
後日、行きつけの寿司屋で、政治談義に花を咲かせる45歳くらいの4〜5人の男女がいた。俺に気づくなり、「洋七さん、参院選に出てくれませんか?」と頼まれた。「俺はアホでっせ」とやんわり断ると、「洋七さんのような一般の人の目線で気持ちが分かってくれる人が良いんです」と言うから「出る、出る」とギャグでその場を凌いだんです。
1週間後、家のインターホンが鳴り、出てみると先日、寿司屋で会った人たちがいた。「私たちがすべてお手伝いするので、ぜひ出馬してください」。喫茶店で耳にしたシングルマザーの話から、駅に託児所を設置したらいいんじゃないのか。学校の先生には大学卒業後、1つの職場で1カ月働いてもらって、14カ所くらいの職場を体験し、社会勉強してもらったらどうか…などのアイデアが浮かんでいた。でも、その時は「ちょっと考えさせてください」と一旦保留したんです。
ギャグで笑わす応援演説
当時、知り合いで政治学を学ぶ埼玉大学の学生がいた。彼に相談すると「僕らも手伝いますから」と勧める。供託金300万円を自分で出して、なるべくお金が掛からないように自宅を選挙事務所にし、無所属で出馬することにしたんです。
選挙戦なんて初めてだから分からないことだらけ。チラシを配るのも選挙管理委員会の認印が必要だったりと、面倒な上に、とにかくお金がものすごく掛かるんですよ。選挙カーもよくあるバンと軽自動車の2台借りただけです。
大宮駅前での出陣式には、間寛平が駆けつけてくれた。紹介されるなり、演説台に上がった寛平は「アヘアヘアヘアへ」と第一声。寛平は人気者だったから観衆は大爆笑。「ギャグはええから。意味分からんやろ」とツッコむと、「洋七は頭が悪いなりに一般の人の気持ちがよく分かる。国会議員に庶民の気持ちは分からない」と話してくれました。
選挙カーで埼玉県内を回ったけど、選挙運動をしたことがないからどこを回ったら良いのか見当もつかなくてね。埼玉と東京の境辺りまで行くと、パトカーに止められ「島田さん、ここは東京都ですから選挙区ではないですよ」。気がついたら、東京都内で選挙運動をしてたんですよ。慌てて埼玉県内に戻りました。
その日は『ザ・ぼんち』のおさむが軽自動車で応援演説してくれた。運転していた弟子にどうだったか尋ねると、「おさむちゃんで~す! しか言ってなかったです」。おさむに「お前、島田洋七って言えよ」とツッコミを入れると、「看板に島田洋七と書いてあるから分かるやろ」だって。
いろんなボランティアの方が協力してくれて選挙戦を無事に終えましたが、結果は落選。2週間くらいの選挙運動で8キロも痩せましたが、ホンマにいい経験をさせてもらいました。
島田洋七
1950年広島県生まれ。漫才コンビ『B&B』として80年代の漫才ブームの先駆者となる。著書『佐賀のがばいばあちゃん』は国内販売でシリーズ1000万部超。現在はタレントとしての活動の傍ら、講演・執筆活動にも精力的に取り組んでいる。
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