先週のユニコーンSには絶句した。文中に「さほど荒れないのが定説だ」と書き、「何より3番人気が過去10年で9回馬券になっている(中略)。早い話が3番人気はどの馬か、を見つけられりゃあ〝当たったも同然?〟」とまで記した。
しかし、結果は…〝法則に気付いた時は、ハズレ時〟とはよく言ったもので、注目の3番人気武豊ジュタロウは10着に惨敗し、データ作戦は脆くも崩れた。おまけにわが本命田辺コンバスチョン、対抗福永リメイクも、各々9着、6着に敗れたのでは申し開きできない。
せっかく2着デムーロのセキフウ、3着戸崎バトルクライにも印は付けているのに、1着菅原ペイシャエスは無印だもの。馬券に反映されなければ、隣の柿の木で指をくわえているだけのこと。それにしても荒れたなあ。同日、西の重賞は荒れるので有名なマーメイドS。これより単勝・馬連・3連複・3連単が配当金額で上回ったのだから、当たらないはずだよ、と自分を慰めた。どうも最近は〝泣き〟が多いね。ジジイの繰り言、と思って聞き流して下さいな。
それでも多少はオリコウサンだったのは「GⅠの前週だけに、軍資金は大切にし、先週以上に買い目を減らし、控えめな投資としたい」と書いたように、損害が軽微なことだ。さあ、今週はいよいよ〝春の総決算〟宝塚記念だもの。ここはダービー、有馬記念級にタマをブチ込みたい。狙いは、暮れのグランプリ同様、ファン投票レースは〝好きな馬から買え!〟が定説だ。
で、ここは軸1頭。昨年暮れの有馬記念でもお世話になった和田竜ディープボンドにハナっから決めていた。いつもはボックスや別の馬からも流すのもしばしばの腰の定まらない予想だが、今回はディープボンドと心中である。かの1991年のメジロライアンの昔から、この宝塚記念が待望のGⅠ初勝利というケースは、84年のグレード制導入以来17頭もいるそうだ。約5分の2なら、決して少なくない。わがディープボンドは、GⅠ・2着が3回もある。そろそろ〝悲願の〟という形容詞が付いても良い頃だ。阪神巧者というのも心強い。
競馬も映画も素晴らしき“記憶装置”
横山和タイトルホルダー、横山武エフフォーリアの〝横山兄弟対決〟が話題で、おそらく1、2番人気。ボンドは3、4番人気がせいぜい。人気はアチラ、1着はコチラ、と願いたい。他のヒモ候補は、牝馬で松山だしの3冠馬デアリングタクト、宝塚に縁のある8枠の吉田隼ポタジェ、〝左利き〟っぽいがルメール大将のオーソリティ、中長距離は堅実な武豊アリーヴォ、そして大穴なら2200メートルはどうかだが、石橋アイアンバローズの一発か。
それにしても思い出すなあ。当時、偏愛していた前出のメジロライアンに感涙したことを。ライアンの単とメジロマックイーンとの馬連を合わせて10万円買い、珍しく意見の一致した馬悪友K(彼は出張旅費を使い込んでの10万勝負!)と快哉を叫んだっけ。その夜、新宿で酒池肉林に溺れたことは言うまでもない。あれから30年余、そのKも5年前に鬼籍に入って久しい。競馬は往時を思い出す素晴らしき記憶装置でもあるのだ。おっと、またジジイの繰り言が出てしまった。ご容赦のほどを。
〝映画連想馬券〟は、そのディープボンドから『早春』(70年)を。なぜなら原題が〝ディープ・エンド〟で、一文字違い(?)だからということで選んだのだが、この映画をずっと紹介したかったことも一方にはある。ロンドンの公衆浴場で働く15歳の少年(ジョン・モルダー・ブラウン)が、接客係の20代女性(ジェーン・アッシャー)に翻弄されるが、好きになってしまう。典型的な年上女性相手の甘酸っぱい体験ものに見せかけて、ポーランド出身のイエジー・スコルモフスキー監督は、かなりシビアに歪んだ方向へと話を持ってゆく。少年の抱いた愛と性、死と狂気…。強烈な印象を残すのが、彼女に似たストリッパーの等身大タテ看板を盗み、それをプールに投げ込み水中で抱くあたり。ここは鬼気迫るものがあり、それがラストの凄絶なシーンへと繋がってゆく。小ギレイな邦題とは裏腹に、もっと深い深い終焉へ…ディープ・エンド。20歳の頃に観た衝撃は今も忘れられないし、当時の屈折したわが心のことも思い出す。映画もまたその時代への、素晴らしき記憶装置なのだ。
最終的な買い目は、ディープボンド軸に相手7頭。⑮から①④⑤⑥⑦⑬⑱へ馬連&3連複。若かりし頃、メジロライアンをしこたま買った〝元気〟を振り返りつつ、普段はほとんど買わない単勝も、今回は珍しく買って、ボンドへの〝マジな想い〟をぶつけてみたい。
秋本鉄次
映画評論家。〝飲む・打つ・観る〟〝映画は女優で観る〟をモットーに、娯楽映画、中でも金髪女優の評論にかけては業界随一。著書に『パツキン一筋50年 パツキンとカラダを目当てに映画を見続けた男』(キネマ旬報社)など。
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