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コロナ規制緩和からの日本恐慌~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

岸田文雄総理は外国人の入国者数上限を6月1日から1日2万人に引き上げると同時に、6月10日から団体ツアー客に限り、98の国と地域からの観光客受け入れを再開すると発表した。

それらの地域からの入国者は、入国時の検査も隔離も不要となる。対象となる国や地域は、感染リスクが低いとされるアメリカやイギリス、中国、韓国などで、これまで日本への観光客が多かった国や地域が、すべて含まれている。

これまでの我慢の反動や空前の円安によって、日本観光のニーズは大きく高まっているから、入国枠いっぱいの外国人観光客が押し寄せてくる可能性は高い。

私は岸田総理がリスクを取ったのだと思う。万が一、入国する外国人観光客によって新たな変異株が持ち込まれ、それで感染爆発が起きたりしたら、7月の参院選で与党が惨敗する可能性も出てくる。それでも、あえて外国人観光客の受け入れに舵を切ったのは、観光業や旅客輸送業、飲食業などへの配慮だろう。

新型コロナの感染拡大に伴う行動自粛要請で、これらの業種は甚大な被害を受けた。このまま放っておいたら倒産する企業が続出する。そうなったら、政府保証で貸し付けた緊急融資が焦げ付いてしまう。だから、感染拡大のリスクよりも、経済を優先したのだ。

岸田政権圧勝では日本経済が危ない…

もちろん、岸田総理にとっては、勝算のある政策変更だ。ゴールデンウィークであれだけの人出があったにもかかわらず、感染拡大が起きなかったからだ。私自身も岸田総理の賭けは、成功する可能性が高いと考えている。いまから100年少し前に流行した「スペインかぜ」も、日本での流行は2年半ほどだったからだ。

コロナが収束して経済が正常化することは、とても喜ばしいことなのだが、私にはその先の心配事がある。それは、岸田政権が参院選で圧勝することだ。いまのところ、国民は岸田総理のコロナ規制緩和方針を支持しているし、野党の支持が広がっているわけではないので、岸田政権圧勝の可能性は高いだろう。

ただ、政権基盤を強めた岸田総理は、必ず本性をむき出しにしてくる。本稿で何度も指摘したように、岸田政策の基本は、財政と金融の同時引き締めだ。これまでは、安倍晋三元総理などが横やりを入れてきたが、もし参院選で圧勝すれば、そうした反対を無視して一気に緊縮に走るだろう。

岸田総理が手に負えないのは、それが「正しい経済政策」だと信じていることである。現実の経済を見ながら経済政策を微調整するのではなく、政治的に可能になった時点で、「正しい経済政策」を断行するというスタンスなのだ。

すでにアメリカ経済は、着実にバブル崩壊の方向に歩み始めている。中国に至っては、すでに不動産バブルが崩壊状態になっている。足元のインフレから、世界はデフレに船首を向け始めているのだ。そうしたなかで、岸田総理の「正しい経済政策」を断行したら、日本経済は確実に恐慌状態に陥るだろう。

昭和恐慌から92年、4人に1人が失業者になったと言われる経済失策の記憶は、すでにほとんどの人から消えている。しかし、恐慌は経済の専門家を自認した当時の濱口雄幸首相が、財政金融の同時引き締めを強行したことにより、もたらされたことは忘れてならないのだ。

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