『オフィサー・アンド・スパイ』
監督/ロマン・ポランスキー
出演/ジャン・デュジャルダン、ルイ・ガレル、エマニュエル・セニエ、グレゴリー・ガドゥボワ、メルヴィル・プポー、マチュー・アマルリック他
配給/ロングライド
『ローズマリーの赤ちゃん』『テス』『戦場のピアニスト』などの名作を世に送り出した巨匠の最新作。
2019年の製作当時、よわい86にして生み出した本作のテーマは、19世紀末にフランスで起きた「ドレフュス事件」。確か、世界史で習ったよなぁと記憶の片隅にあったので、本作を見終わった後、家にあった高校の世界史の教科書を開いてみました。
自分の教科書はボロボロになるまで使い込んでいたので、同じ山川出版社のものを古本で購入してありました。この教科書には「松本」と記名されていまして、キレイなまんま。松本くん、勉強していません(笑)。買ってから長らく、本棚の隅に立てたままでしたが、初めて役に立ちました。ところが教科書には、一言触れられている程度。ほとんどスルー状態だったので、さらにネットで調べてみました。
1894年、ユダヤ人のドレフュス大尉がドイツに機密を漏えいしたスパイ容疑で終身刑に。その後、真犯人の告発をめぐって、当時のフランス社会に深刻な分断をもたらし、国家の土台を揺るがす政治問題となったようです。日本で言えば二・二六事件のような、後世を変えてしまう歴史的事件なのでしょう。調べるほどに複雑な背景があったことが分かります。
ざっくりまとめて「冤罪もの」
しかし本作では、背後にあった軍部や政府の反ユダヤ主義などは刈り込まれ、単純化されています。むしろ、ウィキペディアなどでは表に出てこない、真相を暴こうとしたピカール中佐という歴史に埋もれた人物にフォーカス。スキャンダルを恐れて証拠捏造、文書改ざんなど、あらゆる手で隠蔽を目論む国家権力に抗う人物像に迫ったからこそ、本国フランスでナンバーワン大ヒットしたのでしょうね。
しかし、我々のような日本人にとっては、髭をたくわえた顔つきも、制服のいでたち、背格好もよく似ているピカール中佐とドレフュス大尉を画面で認識するのは、なかなかに困難です。なので見る前にパンフレットで予習し、登場人物の特徴と相関図を叩き込んでおくことをお勧めします。
この「ドレフュス事件」を扱った本作をざっくりまとめて言うと「冤罪もの」です。自分は「冤罪事件」映画をよく見るほうで、これまでも「袴田事件(再審請求中なので今は清水事件と呼ぶらしい)」や「名張毒ぶどう酒事件」「狭山事件」などを扱った映画を、東京・東中野の小さな映画館「ポレポレ東中野」などに見に行っています。すると案外お客さんが入っているんですよ。実話の読者の中にも「冤罪もの」というニッチな同好の士がいらっしゃいましたら、本作も是非に。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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