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日本国民を恐慌へ誘う岸田政権~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

小泉政権以降の新自由主義政策によって賃金が実質的に低下し続けたため、消費が低迷し、日本経済は転落の一途をたどっている。

私は、岸田文雄総理が「新しい資本主義」を打ち出したとき、その理念に大いに賛同した。岸田総理の〝分配なくして次の成長なし〟というキャッチフレーズが、一般国民の生活改善につながることを期待したからだ。

岸田総理は、分配の財源として「金融所得課税」を打ち出した。カネにカネを稼がせることで太った富裕層から税金を取って、それを庶民に分配する。岸田総理は、そんな政策を考えていると、私は理解していた。

しかし、その政策に投資家たちは、いきなりNOを突き付けた。マーケット・経済専門チャンネルの『日経CNBC』が1月に行った調査で、岸田政権の支持率はわずか3%だったのだ。その後、岸田総理は金融所得課税をあまり口にしなくなってしまった。

そして5月5日、英ロンドンの金融街シティで講演した岸田総理は、明確な路線変更を表明した。「インベスト・イン・キシダ」という新しいキャッチフレーズを用意し、自分の経済政策はアベノミクスの転換ではなく、継承・発展だと主張を180度変えたのだ。

岸田総理は、貯蓄から投資への流れを加速するため、新たに表明した「資産所得倍増プラン」の中で、NISA(少額投資非課税制度)の大幅拡充を打ち出した。金融所得課税どころか、金融所得減税だ。

着々と金融引き締めを行う

また、ウクライナ戦争の影響でロシアからの石油輸入が困難になることを受けて、原発の再稼働を打ち出した。ちなみに岸田総理は、核兵器による被爆地の広島出身だ。

こうして見ると、岸田政権と安倍政権の違いがよく分からなくなるが、私は明確な違いがあると思う。それは岸田総理が進める財政・金融の同時緊縮だ。すでにその兆候は、はっきりと表れている。

財務省は5月10日、国の借金が6年連続で増加し、3月末で1241兆円と過去最大になったと発表した。しかし、昨年度の借金の増加額は25兆円で、安倍政権時代、一昨年度の102兆円の4分の1以下である。コロナ対策の給付金などを大幅に絞り込んだ成果だ。今年度の補正予算も2.7兆円と、安倍政権時代に比べてケタ違いに小さなものとなった。

また、強硬な金融緩和派だった片岡剛士・日銀政策審議委員の退任を決めるなど、金融引き締めに向けて着々と手を打っている。

私は、岸田総理の最大の問題は、経済に関して誤った自信を持っていることだと思う。ロンドン講演でも、「私は最近の総理大臣の中では、最も経済、あるいは金融の実態に精通した人間だと自負している」と述べている。その過信が日本経済にとんでもない惨禍をもたらす可能性が高いのだ。

1929(昭和4)年に就任した濱口雄幸総理は、世界恐慌が始まる中で「明日伸びんがために、今日縮む」と言って、緊縮財政と旧平価での金本位制復帰という強烈な金融引き締めを断行した。その結果、日本経済は昭和恐慌に突入したのだ。

すでに米国株価は、年初より大幅に下落し、世界恐慌への第一歩を踏み出している。このまま行けば、日本は93年前の歴史を繰り返してしまう可能性が高い。今後、自民党内で反乱は起きるのだろうか。

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