『刑事弁護人』新潮社/2145円
薬丸岳
1969年兵庫県明石市生まれ。駒澤大学高等学校卒業。2005年、『天使のナイフ』(講談社文庫)で第51回江戸川乱歩賞を受賞してデビュー。16年『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞を、17年『黄昏』で第70回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。
――本作では有罪率99.9%の刑事事件に挑む若き女弁護士が描かれています。なぜ弁護士を題材にしたのでしょうか?
薬丸 デビュー作『天使のナイフ』を書いていた頃から弁護士の仕事に興味がありました。『天使のナイフ』は少年犯罪や少年法を題材にした作品で、作中にも罪を犯した少年を擁護する弁護士(少年事件では付添人)が登場しますが、時に弁護人は世間から極悪人とされる犯罪者の弁護もしなければなりません。どのような思いで弁護しているのだろうか、また葛藤などはないだろうかという興味をデビュー時の17年前から持っていました。
――構想17年、綿密な取材を重ねてリアリティーを追求され、どんな部分にこだわったのでしょか?
薬丸 僕自身も司法関係の勉強をしたり、たびたび裁判の傍聴に足を運びました。また連載中から弁護士の方に司法監修をしていただき、物語としての面白さと実務としてのリアリティーを両立できるように努めました。
裁判というと他人事の世界だと思われるかもしれませんが、実際に裁判の傍聴をしていると、そうとも言い切れない思いを抱きます。この物語を通して、逮捕された後の被疑者の処遇、裁判に至るまでの過程などを分かりやすくお伝えし、また、多くの読者の方が知らないと思えることも織り込みたいという思いもありました。
その1つが勾留理由開示請求で、このシーンを書くにあたっては結構苦労しました。
弁護士に違和感を抱く人も多い
――明らかな凶悪犯にもかかわらず情状酌量を訴える弁護士に違和感を抱く人も多いですね。
薬丸 刑事弁護人の使命は被疑者や被告人の利益を最大限に尊重することであるとは思いますが、実際の弁護の中には、素人の僕からするとどうにも納得できないものもあります。最近起きた2人が亡くなった池袋の交通事故では、被告人の説得力のない供述が被害者のご遺族の神経を逆なでするなど、被告人の利益を優先するあまりに被害者側の思いとはあまりにも乖離した弁護のように感じましたね。
――本作は連載時から続編を意識していたそうですね。次回作の構想を教えて下さい。
薬丸 担当編集者さんとはまだ話をしていませんが、僕の中ではやりたい構想があります。ただ、こちらに関してはまだ内緒ということにさせてください。1つお話しできることがあるとすれば、日本に限らず世界の司法で絶えず議論になっている大きな問題だということです。
(聞き手/程原ケン)
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