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売り上げ激減…紳士服大手各社の多様化競争~企業経済深層レポート

企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

紳士服業界は今、売り上げが激減し、大手各社が生き残りを懸け、続々と異業種への多角化経営に乗り出しているという。

青山商事(広島県福山市)が営む業界最大手「洋服の青山」。その青山が、100円ショップ経営に乗り出しているなんて――。市民の間からそんな驚きが漏れるほど「青山の100均進出話」は、あまり知られていない。

アパレル業界関係者が解説する。

「一般には知らない人も多いのが現状です」

同関係者によると、青山商事は2016年に100円ショップのダイソーを展開する大創産業(同東広島市)と販売代理店契約を締結。以来「洋服の青山」の閉鎖店舗や営業中の店の一角に「ダイソー」を出店させているという。

全国のダイソー約3600店舗のうち、フランチャイズ店は約800店舗。その約14%にあたる112店舗(21年8月)を青山商事系が占めている。今後、この比率はさらに高まる可能性が高いという。

このように青山商事がダイソー運営という奇手に出たのは、冒頭に示したように紳士服の売り上げ縮小にある。どのぐらい減っているのか。経営コンサルタントが解説する。

「青山商事の21年3月期決算での売上高は1614億400万円でした。この数値は17年3月期の青山の売上高2527億7700万円と比べ約1000億円も落ち込んだことになります。経常赤字は114億3600万円にも達しました。その後、昨年11月の22年3月期上期中間決算では、その時点で75億円の赤字と、依然として苦しい経営が続いています」

コロナ禍のスーツ離れは望みがない…

同コンサルタントに言わせると、こうした紳士服の売り上げの急減傾向は紳士服業界全体の流れだという。売り上げ減の理由を、こう明かす。

「05年に国が脱炭素社会の世界的流れに沿って夏場の軽装『クールビズ』を推奨したころから、霞が関や丸の内などを中心にカジュアル化が進んで、紳士服の売り上げが縮小し始めました。そうした流れに強い危機感を抱いた青山商事は、ダイソーとタイアップを始めたのです」

問題は業界へのダメージが「クールビズ」だけでは済まなかった点だ。

「そこに新型コロナ禍が追い打ちをかけました。在宅勤務の拡大、冠婚葬祭やイベントの自粛でスーツの需要がさらに減り、紳士服に代わる新たな収益の柱が必要となりました。その結果が多角化経営です」(同)

今後、青山商事では「ダイソー」に限らず、フランチャイズ展開にさらに力を入れるという。経営コンサルタントが言う。

「青山商事は、コロナ禍でも勢いがある『焼肉きんぐ』やしゃぶしゃぶ店『ゆず庵』など全国595店を展開する愛知発『物語コーポレーション』とフランチャイズ契約を結びました。収益を確実に上げるために企業体質の改善を急いでいます」

青山商事は、ほかにも、靴修理や合鍵作成などのリペア(補修)事業「ミスターミニット」を運営するミニット・アジア・パシフィック社を傘下に入れるなどウイングを広げ続けている。

時代に沿った多角化がマッチした

一方、紳士服店「AOKI」を展開する業界2位のAOKIホールディングス(横浜市)も、同様に多角化経営に動き出している。

アパレル業界関係者が、こう言う。

「AOKIは相次ぐ店舗閉鎖を受けながらも、22年3月期の連結最終損益で2年ぶりに13億円の黒字に転換しました。しかし、これも焼け石に水で19年のコロナ前の黒字幅46億円と比較すると3分の1以下に落ちています。そのためAOKIも新収益の柱を見つけようと躍起です」

実は、AOKIは約20年前にいち早くカラオケ関連企業を立ち上げ、その後「快活フロンティア」(横浜市)に衣替え。現在は、ここに力を入れる。

「フロンティアは24時間営業のフィットネスジム『FiT24』も始めました。コロナ禍で運動不足となったビジネスマンの利用が増えているそうです」(同)

また、テレワーク時代にマッチしたシェアオフィスにも力が入る。3時間料金を1500円前後に抑えた価格設定が当たり、こちらも業績を伸ばしている。さらに、ブライダル事業として東京・表参道など、首都圏や大阪を中心に結婚式場「アニヴェルセル」(東京都港区)も展開する。

業界3位のコナカ(横浜市)も、多角化経営の一環で、とんかつ店「かつや」を出店するなど外食事業に積極的だ。

多角化を図る紳士服業界だが、こんな動きもある。同業界関係者が言う。

「コロナ禍のテレワークで業界全体が苦しい中、AOKIは、そのテレワークにマッチしたパジャマスーツを考案。発売から1年で7万着を突破する大ヒット商品となりました。また、業界トップの青山商事は、外食など異業種進出に積極的な一方で、今年オーダースーツとしては日本一とも謳われる『麻布テーラー』を買収し、紳士服へのこだわりを見せています」

紳士服業界の生き残りを懸けた多角経営。その生命線は、やはり紳士服勝負か。

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