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『ツユクサ』/4月29日より全国公開〜やくみつる☆シネマ小言主義

Ⓒ2022「ツユクサ」製作委員会

『ツユクサ』
監督:平山秀幸
出演/小林聡美、平岩紙、斎藤汰鷹、江口のりこ、桃月庵白酒、水間ロン、鈴木聖奈、瀧川鯉昇、渋川清彦、泉谷しげる、ベンガル、松重豊
配給/東京テアトル

こういうしみじみと穏やかな映画が沁みる年代になりました。

新型コロナウイルスによるパンデミック、戦争災禍はもちろん、昨今の日本映画界から噴出した、長年の膿のような性被害の告発。そういった闇とは無縁の、気をてらうことのない映画づくりの姿勢に、心が浄化される思いがいたしました。

映画の中の物語を動かしていく事象は、普通は事件と呼ぶのでしょうが、この作品では「小さな奇跡」。それを1つ1つの小道具が暗喩しています。チラシに書かれたコピーの「隕石が落ちた」や「草笛が吹けた」が奇跡であるなら、今この時代に生を受けたことすら奇跡かもしれないのに、自分を含め99%の人がスルーしてしまっていますよね。

そしてタイトルの『ツユクサ』。この葉が草笛に適しているということで登場しますが、実はよく見ると類い稀なる美しい草花。しかも、道の端っこなどに、必ず小さく群生しています。

これも、人は単独では生きていけない、誰かと繋がろうとするという、人間の本質を象徴しているよう…なんて、雑草好きなもので、つい深読みしてしまいます。

生きる哀しみが見え隠れして…

映画の中で、小林聡美演じる主人公の中年女性が勤めるボディータオルを製造する工場で、朝にラジオ体操するシーンが2回出てきます。ごく短い時間ですが、ここにも小さな意図を感じます。最初の体操シーンでは、小林聡美は他の人と揃えようともしないんですが、終盤に出てくる体操シーンでは揃っている。その間にある、淡い恋や人との繋がりが、知らないうちに息を合わせるように変わった、主人公の心情を表しているのではあるまいか。

本作を見る前に収録していた有料の音声配信サイトのトークテーマが「孤独について」だったのですが、本作の裏テーマもまた、「孤独」なんじゃないかと。1人でアパート暮らしをする小林聡美も、交通整理の仕事をしながら1人で草笛を吹いている松重豊も、生きる哀しみが見え隠れしています。

自分もまた交際範囲が非常に狭く、単独で出かけるのも好き。ただ、日常のよしなしごとを逐一カミさんに話したり、考えたことを執筆して読者の方に読んでもらったりすることで、ボッチではないように感じています。

この映画の登場人物たちも、それぞれの内に孤独を抱えながらも、わずかな光を求めるように繋がっていく。SNS等で手当たり次第に繋がりたがる世間の風潮をよそに、こんなつましくて遠慮深い繋がりが貴重に思える本作に、今見るべきものがあると感じました。

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

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