家庭用の冷凍食品が、ブームの様相を呈している。その状況をフードアナリストが次のように解説する。
「日本冷凍食品協会によると、いわゆる一般家庭向けの2020年市販用冷凍食品の国内生産量が、前年比18.5%も増え3748億円に達しました。この額は、コロナ禍で需要が減った外食やホテルなどで使われる業務用冷凍食品の額(3278億円)を上回り、前代未聞です。しかも21年以降も、その勢いは増すばかりです」
伸びた背景は何か。同アナリストは、こう分析する。
「いくつか理由はありますが、1つは、やはりコロナ禍での外食自粛と巣ごもり需要です。リモートワークなどが増加し、自宅での食事に調理が簡単な冷凍食品を選ぶ人が増えました」
もう1つの理由は、冷凍食品の味が昔に比べて向上したことだという。
「冷凍技術の向上で、食品の細胞を傷つけない冷凍法や、解凍してもドリップが出ず風味が損なわれない冷凍法などの技術が進み、以前より冷凍食品が格段においしくなっています」(同)
ドリップとは解凍時に食品から流れ出る水分のこと。ドリップとともにビタミンCなども一緒に溶け出すため、栄養成分も失われる。
「加えて、水分を失った野菜や果物は張りを失い、肉は質が損なわれ、味も見た目も悪い。このドリップを抑える冷凍技術が、大きく進化したのです」(同)
従来の味気ないイメージを覆す進化
冷凍食品ブームの理由は、それだけではない。昨今、叫ばれる「食品ロス削減」も遠因だという。大手商社関係者が言う。
「日本の年間の食品ロスは約600万トン。国民1人あたり約47キログラムもの食品が食べられずに廃棄されています。いずれも規格外、賞味期限切れなどが理由ですが、冷凍保存はこうした無駄を大幅に節減できます。今はロシアとウクライナ戦争で世界の小麦の一大産地が大打撃を受け、食料危機も懸念されています。そのような情勢もあり、冷凍食品は今後もさらにクローズアップされるでしょう」
そんな中、従来の味気ない冷食のイメージを覆す、新たな冷凍食品専門店が続々と登場している。
先陣を切ったのは、フランス発の『Picard(ピカール)』。16年に日本1号店を東京・青山にオープンさせて以来、フランス発の冷食専門店として、そのブランド力と手頃な価格で東京を中心に15店舗まで拡大した。さらに、今年に入りタレントのデヴィ夫人がテレビ番組で絶賛するなど、多くのマスコミにも取り上げられ話題を呼んでいる。フレンチシェフの1人が言う。
「ピカールの成功は、もちろんフランス発というブランド力も大きい。同時に、そもそも味が素晴らしく、多くの食通のハートをキャッチしました。中でも人気は1日5000個も売れるという『クロワッサン』。フランス産の発酵バターや平飼い鶏の卵を使うなど、素材にも徹底してこだわっています。そのため、家のオーブンで焼けば即、本場のクロワッサンの香りが食卓に漂う優れものです」
他にも、トマトとモッツァレラチーズがのる直径30センチほどの「ピッツァ マルゲリータ」などが人気だ。
寿司屋も脱帽の液体冷凍製品
冷凍食品専門店では、昨年2月に横浜市内にオープンした『TŌMIN FROZEN(トーミン・フローズン)』も注目を集める。今年2月には、仙台に2号店を開店。伊藤忠食品(大阪市)と、凍結機器の製造・販売を行うテクニカン(横浜市)が共同で立ち上げた。
テクニカンといえば、主力は「凍眠」と称する製品だ。マイナス30度のアルコールで冷凍。空気冷凍より液体冷凍のほうが20倍速く凍ることを活かした特許技術製品で、この技術は国連に招聘され世界に向けた講演を行ったほど。フードアナリストが言う。
「トーミン・フローズンの店内には、ドリップを出さずに栄養やうまみを保つ、鮮度のよい商品約500種がズラリ。例えば、魚などは少し時間が経てば味が落ちるのが常ですが、『凍眠』の急速冷凍技術で瞬時に味を閉じ込め、高品質のまま長期保存できる。その新鮮さと味は漁師も舌を巻くもので、店内販売の生寿司は寿司屋も脱帽の味です。日本酒の蔵元で冷凍技術を用いた生酒にも唸らされます」
また、福島県を中心に食品スーパー約70店を展開するリオン・ドールコーポレーション(福島県会津若松市)も冷凍食品の新業態『みんなの業務用スーパーリンクス』を昨年オープンして人気だ。
「売場面積のうち半分、約1300品目が冷凍食品。カット野菜や生鮮素材、惣菜などの日常食品のほか、地元レストランの人気パスタの商品化や『成城石井』などの商品も扱い人気を博しています」(同)
他にも、ハットコネクト(横浜市)が冷凍パン専門店『時をとめるベーカリー』を神奈川県内で展開。エスエル・クリエーションズ(東京都大田区)は、高級路線を打ち出した『ジーズメニュー』を、大阪・阪急うめだ本店デパ地下などで出店するなど、各社の参入も相次ぐ。
こうした現象を受け、大手スーパーやコンビニも冷食コーナーを大幅に拡大するなど対策を急ぐ。ブームのピークは、まだ見えない。
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