『ロシアを決して信じるな』新潮新書/814円
中村逸郎
1956年生まれ。ロシア研究の第一人者。筑波大学人文社会系教授を経て現在、筑波学院大学教授。学習院大学大学院政治学研究科博士課程単位取得退学。2017年、『シベリア最深紀行』で、梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。『東京発モスクワ秘密文書』『ロシア市民』『ろくでなしのロシア』などの著作がある。
――ロシアは日本人にとってまだまだなじみの薄い国ですが、実際はどのような国民性なのでしょうか?
中村 私がモスクワの街を歩いていたときのことでした。前を歩いていた男のポケットから100ドル札の束が入ったビニール袋が落ちたんです。
私は反射的に拾い上げ、男に「お金を落としましたよ」と話しかけました。男は笑顔を浮かべて感謝の言葉を口にしましたが、その直後、「もう1つのビニール袋を見ませんでしたか? あなた隠しているでしょう。泥棒!」と大声で叫んだのです。私は携帯電話を取りだし、「大使館に電話します」と声を絞り出すと、男は去って行きました。
最初から私をハメようとしていたのでしょうね。ロシア人は人の善意を逆手にとって一瞬で恐怖に陥れることを平気でやってきます。人道回廊を設けてウクライナ人を避難させると見せかけて地雷を設置したのを見れば、私の言うことがよく理解できると思います。
――ロシアのウクライナ侵攻が問題になっています。プーチン大統領の最終的な目的は何ですか?
中村 当初は傀儡政権を樹立することだったと思います。しかし戦争が長引いたことで、最終的にはウクライナを人が住むことのできない荒地にするでしょう。そのためには化学兵器や核の使用も辞さないでしょうね。ウクライナに住む4000万人の国民はほとんどが難民になって、周辺国に逃げるしかないでしょう。
第3次世界大戦の可能性も…
――今後、戦争はどうなると思いますか?
中村 このまま経済制裁が続けば、4月下旬にはデフォルト(債務不履行)に追い込まれるでしょう。追い詰められたプーチン大統領は、ポーランドやバルト3国に向けて核攻撃をするかもしれません。私は第3次世界大戦になる可能性は極めて高いと思っています。ロシア国内では反プーチンの機運が高まっています。暗殺も計画されていますが、側近以外は近づけないのでかなり難しいでしょうね。
――北方領土問題はどうなると思いますか?
中村 北方領土には現在約2万人のロシア人が生活していますが、食料のほとんどをウラジオストクからの流通に頼っています。しかしロシアがデフォルトしたら食料が届かず、住民が日本に難民としてやって来るかもしれません。そうなると北方領土は誰も住まない島になるため、逆に返還のチャンスになると思います。北方領土にはビザ無し交流があったことから、日本を頼りにしている住民もたくさんいます。このときに、安倍元総理が進めた支援政策が活きてくると思います。
(聞き手/程原ケン)
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