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日本がロックダウンをしない訳~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

新型コロナの感染が急拡大している中国の上海で、ロックダウンが始まった。3月27日に過去最多となる3500人の新規感染者が確認されたことを受けての措置だ。

人口2600万人の同市を東西に分け、東半分は3月28日から5日間、西半分は4月1日から5日間、それぞれロックダウンされ、東側では延長措置も採られた。

期間中は外出が禁止され、市民全員に対してPCR検査を実施。公共交通機関の運行も停止された。「ゼロコロナ政策」を掲げる中国が、感染拡大にぶつけてきた切り札だ。

私は大きな効果があると思う。オミクロン株の特性で、ほぼすべての人が5日以内に発症する。無症状の感染者にもPCR検査を実施することで、より厳密な隔離が可能になる。検査と隔離という感染症対策の基本が行われるのだから、感染者数をゼロにできなくても、大幅に減少させる効果があるのは確実だ。

私は、出演しているニッポン放送の番組で、感染症の専門家である峰宗太郎医師に、中国のロックダウン政策についてどう思うのか聞いてみた。峰医師は「効果はある」と断言したが、日本で同じことができるかについては「経済的、社会的に受け入れ可能かどうかにかかっている」と、障壁があることに言及した。

その通りだと私も思うが、5日間のロックダウンを日本の大都市で行っても、年間のGDP(国内総生産)への影響は0.1%にも満たないだろう。当然、巣ごもりの前に消費財の買いだめが発生し、消費が大きく落ち込むことはないからだ。

新型コロナの新規感染者数は、まん延防止解除後の大幅な人出の増加に伴って、底打ちから微増状態だ。このままでは感染第7波に突入して、観光業や飲食業の書き入れ時であるゴールデンウイークが、3年連続で駄目になってしまう可能性がある。

厚労省も認めている“ロックダウン”の効果

それだけではない。もっと深刻なのが死亡者数だ。3月28日現在で、感染第6波の死亡者数は9536人と、1万人に近い規模になっている。メディアはウクライナ情勢の報道に重点を置いているが、日本でも相当な数の国民が命を落としているのだ。

死亡者数を大きく減らす方法はある。それは、中国と同じ5日間のロックダウンであり、日本政府も分かっているはずだ。

厚生労働省は濃厚接触者の待機期間について、検査で陰性を確認した場合、最終接触日を0日目として5日目から待機解除が可能としている。つまり、同省も5日間のロックダウンで、感染リスクを大幅に下げることができると認めているのだ。

日本では、ロックダウンを可能にする法制度がないという見方もあるが、日本人の同調圧力を利用すれば不可能ではない。公共交通機関の運行停止は、台風などの災害の際に、これまでも行っている。

それにもかかわらず、政府が強い感染抑制策を採らない理由は、死亡者の大部分が高齢者であることだと疑わざるを得ない。

高齢者が亡くなっても、労働力供給に大きな影響がないだけでなく、年金や社会福祉費用の削減を通じて、大きな財政負担減がもたらされるからだ。

例えば、財務省のホームページによると、後期高齢者1人当たりの医療費の国庫負担は33万円、介護費の国庫負担は13万円と合計で46万円となっている。ちなみに厚生年金の平均給付は175万円だ。

ただ、政府負担軽減のため、コロナ対策をおざなりにすることは許されない。国民の命を守ることは、政府に課せられた最大の責務だからだ。

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