3月19日から東京都現代美術館で行われている『井上泰幸展』(6月19日まで)が注目されている。
〝特撮の神〟円谷英二さんのもとで活躍した美術監督で、ゴジラに破壊されるビルなどのリアルなミニチュアセットを手がけた巨匠だ。
「井上さんの代表作は1956年に公開された『空の大怪獣ラドン』。同作では、福岡市にあるデパートの岩田屋が破壊されましたが、井上さんが制作した20分の1の岩田屋の模型や市街地が、あまりに忠実に再現されていたため大きな話題となりました」(映画関係者)
当時はCGの技術もなく、パルプ材や厚紙を使って街並みを再現していた。パソコンもなく鉛筆の手描きだったため、図面だけで1カ月はかかったという。
徴兵されて設計の基礎を学んだ
今回の展示用に、岩田屋のミニチュアセットも再現されている。再構築に携わったのは、『宇宙刑事シャイダー』や『ガンヘッド』などで特撮美術を務めた三池敏夫氏。やはり図面を引くのに1カ月、街並みを作り上げるのに3カ月かかったそうだ。
「道路を再現するには、それっぽく砂利を敷き詰めれば良いのですが、線路の曲線部や電線などは、そう簡単にはいきません。図面を作る際にも、斜めから撮影した写真だと窓枠などがゆがみます。それを実寸大に修正しながら作成作業は進みました」(三池氏)
井上さんは、岩田屋がある福岡県の出身。高校卒業後、地元の製紙会社に就職したが、太平洋戦争開戦を機に「三菱兵器製作所」に徴兵され、設計の基礎を叩き込まれた。
「戦後、日本大学芸術学部を卒業。映画界に職を求めた井上さんは、リアルにこだわるため、予算オーバーになることも多かった。1981年に公開された映画『連合艦隊』では、大和の甲板の上だけでも10分の1スケールで制作しようとし、東宝から断られたほどです」(前出・映画関係者)
生涯を特撮に捧げた〝特撮美術の神〟の仕事ぶりを体感できる展覧会だ。
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