西武ホールディングス(HD)は2月10日、子会社のプリンスホテルが保有するホテルやレジャー関連資産の全76物件のうち31物件について、シンガポールの政府系投資ファンド『GIC』に売却すると発表した。
売却額は1500億円で、譲渡益は800億円を見込んでいる。
売却対象は、苗場プリンスホテルやスキー場のほか、岩手県の雫石町、群馬県の万座温泉、長野県の志賀高原にあるホテルとスキー場に加え、各地のゴルフ場やザ・プリンスパークタワー東京(東京都港区)、サンシャインシティプリンスホテル(同豊島区)などが含まれている。
西武HDは売却後もホテル運営をGICから受託する形で続けるとしており、プリンスホテルの名称が変更されることはない
こうした経営改革を高く評価する評論家もいる。世界のホテルビジネスは、すでに40年も前から運営と所有の分離がスタンダードになっているからだ。
例えば、米ホテルチェーン最大手の『マリオット・インターナショナル』は、総資産に占める有形固定資産の割合が9%しかなく、ホテル自体をほとんど所有していない。同社はオーナー企業に人件費や光熱費を負担してもらい、売上高に応じた運営手数料を得ることによって、安定した経営基盤を築いている。
一方、西武HD自身も今回の財務基盤強化を活かして、内外のホテル拠点の拡充や都心およびリゾート施設の再開発を中心に、成長のための投資に注力するとしている。
政府の誤った自粛政策が経営不振の根源
しかし、西武HDの本音は、本来なら売りたくはなかったということだろう。品川や軽井沢など、高収益を見込める施設を温存したことからも、そのことは推測できる。
西武HDの苦境は、鉄道事業とホテル・レジャー事業が、コロナ禍で同時に赤字になったことでもたらされた。西武HDの中核事業が、例えば鉄道とITであれば、鉄道の赤字をITの黒字で穴埋めできていたはずだ。そして、今回の問題は、国民の貴重な資産が外資に渡ってしまったということだ。
もちろん、コロナが収束すれば、今回のホテルやレジャー施設の収益は大きく回復する。しかし、その時の収益の多くは、シンガポールに行ってしまうのだ。
日本には200兆円もの年金積立金がある。現在、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、国内債券、国内株式、海外債券、海外株式に4分の1ずつ投資するという単純な運用をしているだけだ。年金積立金は長期の運用を考えているのだから、年金資金で西武HDの資産を買うという手立ても十分考えられたのではないか。
さらに問題は、西武HDが経営不振に陥った原因が、繰り返し続けられた自粛にあることだ。世界では、強い規制を狭い地域に短期間かけることが、有効であると証明されている。しかし、日本政府は相変わらず、緩い規制を広い地域にずるずると適用するという、最悪の戦略を採ってきた。つまり西武HDは、政府の誤ったコロナ対策の被害者であるとも言えるのだ。
そろそろ経済界からも、コロナ対策の根本的な間違いを指摘する声が上がってもよいと思うのだが、残念ながらそうした動きは見られない。
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