社会

惨憺たる自公の得票減…創価学会“敗北参院選”【後編】/ジャーナリスト・山田直樹

(画像)yu_photo / Shutterstock.com

今夏参院選での「相互推薦」(複数人区)をめぐる公明党と自民党の騒動について「すきま風」や「軋轢」と多くのメディアは報じたが、肝心な点を忘れている。本質的には、自民党と創価学会の対立なのである。

前編で登場した東京地区の選挙対策に携わってきた幹部によれば、

「あたかも公明党組織なるものが、複数人区での公認候補を自民党が推薦しない点が対立だと報じられている。これは全然違います。選挙の主体、実動部隊は個々の学会員であり、彼らは公明党の指示で動くのではなく、創価学会の指令で働く。山口那津男代表や石井啓一幹事長が『もう(相互推薦の)時期はすぎた』、『独力で戦う』と主張するのは、創価学会の意志表明を代弁しているにすぎないんです」

実際、3年前の安倍政権時代に実施された2019年参院選では、どんなことが起きていたのか。目下、自公対立の発火点である参院兵庫選挙区を例にとって見てみよう。ここは長く定数4(改選2)が続いた。16年以降、定数6(改選3)に増えたのだが、自公両党候補の獲得票数を見ると惨憺たるものがある。

●16年 自民党=64.1万票 公明党=54.2万票。

●19年 自民党=46.6万票 公明党=50.3万票。

19年選挙当時、兵庫選挙区の公明党候補応援に現地へ駆けつけたのは、菅義偉官房長官、安倍晋三首相ら政権トップ。兵庫県内で会場確保が叶わず、大阪市内のホテルで開催された「二階俊博自民党幹事長と語る会」には、ご本人が登壇した。安倍政権が公明党候補支援に躍起となり、しかも自民党支持の強固な業界団体である日本港運協会長までが、公明党候補の後援会長に就く支援ぶりだったのだ。

にもかかわらず、公明党候補は前回選挙から約4万票弱減らして2位当選。自民党に至っては地元県連や支持者が自前候補を推したものの、政権中枢の〝公明推し〟の前に18万もの票数を失った。一方で日本維新の会は、19年選挙で前回プラス4万票の伸びだった。

以上のように、自公双方とも引けない事情があるのだ。前編で指摘したように、こうした難問に断を下すには、創価学会と政権側の合意がぜひとも必要なのだが、

「創価学会は党に要求するばかりで、岸田文雄総理-茂木敏充幹事長ラインに直接食い込もうとしない」と見立てる公明党関係者は少なくない。

そんな公明党の置かれた状況を参院選挙比例区得票数から押さえておこう。19年参院選での公明党比例区総得票数は、約653万票である。その3年前から104万票も減少している。

知人の選挙プランナーが解説してくれた。

「つまり、公明党は選挙区で絶対に1つも落としたくない。比例区の方は、前回選挙の投票率がかなり低くなった中、公明党への投票率の下げ幅は小さかったので、『票数は減らしたのに議席は維持できた』結果となりました。創価学会は選挙のプロ中のプロですから、そんなことは百も承知です。仮に、岸田総理や茂木幹事長が『兵庫は公明党を全面支援する』と約束しても、創価学会組織の叩き出す票数が減っているから勝てる確証はよくて6分~4分くらいでしょう。よって今回のゴネ方は、自民党の支持基盤=業界団体の全面的なバックアップ要求に近い。兵庫の地元自民党サイドからすれば、『党中枢が公明党を応援したから、10万票以上が失われ、3位当選に甘んじた。相互推薦などやって、自民党の地元組織を潰すつもりか』という立場。19年選挙の際は、3位の自民党と次点の立憲民主党(単独)候補の差は3万2000くらい。共産党候補は16万票獲得してますから、統一候補を立てた数字を単純に合算すると60万票となり、トップ当選。そうなると、維新が今の勢いなら当選圏内で割を食うのは、自公のどちらかという結論になりますね」

15年間で失った「200万票」

安倍長期政権が続いたため、錯覚しがちだが、連立を組んでからの公明党参議院比例区総得票数は、先に触れたケースのみならず、最初の一時期を除くと一貫して減少している。

98年(自自公政権成立)に774万票、01年は818万票、04年は862万票でこれが現状の最高数値だ。

その3年後(07年)は、一気に約90万票減の776万票。ここから下落に歯止めが掛からず、16年では757万票。さらに持ちこたえられず、19年に104万票減らして600万票台へ突入。ざっくり言えば、15年間で200万の票を失った。思えば秋谷栄之助創価学会会長(当時)は、かつてこんな発言をしていた。

《日本の中で公明党の占める位置は重要になってきている。今は、キャスティングボートを握る立場になっている。自民党が二百何人おろうと、公明党。参議院ですべての重要法案が決まる。日本の命運を決するのは学会・公明党に握られているのが今の日本である》(91年12月6日、創価学会全国県長会にて)

確かに、重要法案は創価学会=公明党のお墨付きがないと通らない現実がある。言い方を変えると、「選挙での協力圧」を加えることで、公明党は〝実績〟を勝ち取ってきた。しかし、問題はその中身だ。

コロナ対策の「国民1人当たり一律10万円」や「低所得者への10万円給付」に関しては、愚策としてこれまで何度も取り上げたから、ここでは触れない。これらは公明党が創価学会の要望に突き動かされて自民党へ要求したもののごく一部だ。

脅し文句は「選挙で支援しない」「連立離脱も辞さない」のお馴染みのフレーズ。その根幹にあるのは、やはり参院選挙なのである。

公明党式バラ撒き第1号は、99年の「地域振興券」だろう。97年に消費税が3%から5%に引き上げられたため、国民1人当たり3万円の商品券を配布する総額4兆円の家計対策だった。指定を受けた店舗(商店等)に使用が限定されたのだが、創価学会会館で本を売る(つまり書店登録)形で、ちゃっかり組織へ還元するルートも確保されていたいわくつき。

対象には永住外国人も入っていて、当時の宮澤喜一大蔵大臣からして「常識では考えられない」と言わしめたものだ。後のシンクタンク試算では、さしたる経済効果も上がらず、「景気回復の春風が吹く」と当時の浜四津敏子代表の主張も自画自賛に終わった。

この構想は、当時の竹下登元首相と秋谷栄之助創価学会会長による「政権協力」に端を発しており、バーターでこの振興券がバラ撒かれたわけだ。

その前段に98年参院選での自民党単独過半数割れがある。自民党が社会党などと組んだ保革連立政権が破綻し、窮余の一策として公明党・創価学会へ秋波を送った。当時の「天下の愚策かもしれないが、七千億円の国会対策費だと思ってほしい」(『野中広務 差別と権力』魚住昭著、講談社刊)との自民党幹事長の言葉は、正鵠を得ている。コロナ禍で、公明党、つまり創価学会の要求をのむ自民党は、この国会対策費を税金から支払い続けてきたのである。

当時の自民党は、まだまともだった。公明党案をすんなり受け入れず、1人当たり2万円、総額6100億円(経費を入れると7700億円。全額国庫負担)まで削り取った。

当時の経済企画庁発表では「効果は2200億円ほどあった」。創価学会へ手厳しい批判を行っていた政治評論家の屋山太郎氏はこんな言葉を残している。

「普通の人なら振興券で日常の消費をし、現金を残すことになるだろう。振興券の分だけ消費が増えると考えたのは『国民が愚かで騙されやすい』と考えていることにほかならない」

現在は自民党が「クーポン券」を主張し、公明党側は「現金」で応酬するなど、主客はすっかり変わってしまったが、コロナを理由に大量のバラ撒きが実行されてきたのは紛れもない事実。

これだけの統制下、国民の自由制限、企業活動の衰退にもかかわらず失業率が上がらないのは、事業継続給付金などの形で倒産が当然のゾンビ企業を税金で救い、従業員の給与を肩代わりしたためである。「国民に我慢を強いているのだから、所得保障するべきだ」という議論は本末転倒も甚だしい。

骨抜きにされた対中非難決議

そのツケは、後に働く現役世代にのしかかってくる。国民の懐から〝薄く広く〟頂いて給付金、補助金競争を政策にするのは田中角栄以来、自民党のお家芸。しかし、その芸の主役はいつの間にか創価学会率いる公明党に交代した感がある。

つまり、給付金、補助金等で目玉を作り、自民党にのませて自らの実績とする――これは、選挙のたびに見せつけられてきた公明党のパターンだ。個々の会員を惹きつけ、動員するためには公明党の実績こそ創価学会の柱でもある。そしてほとんどの場合、その原資は税金なのである。加えて、第2の税金と呼ばれる社会保障費負担は、勤労者に押しつけられる。

ところが、中国や安全保障問題となると別のブレーキがかかる。2月1日、中国の新疆ウイグル自治区、チベット、南モンゴル、香港などの「深刻な人権状況」を「国際社会の脅威」とみなす決議を、衆院本会議が賛成多数で採択した。

いわゆる「対中非難決議」だが、「自公執行部によって徹底的に骨抜きにされた」と政治部記者が述べるのは当然だ。同決議に中国の文字さえないし、非難の単語もない。何のために誰へ向けたものかさっぱり分からぬシロモノを国会で決議することの方が、国際的には恥辱に相当しよう。

その一方、北京オリンピック直前の1月13日、楊宇・駐日中国臨時代理大使が創価大学を訪問、「周桜」(周恩来記念植樹)を見学したり、学生との交流会を開き、基調演説を行った。創価大学自身より、中国側メディアの方が詳報している。

創価大学を創設し、いくつもの中国大学から勲章を得ている池田大作創価学会名誉会長は、おそらく「日本一の親中人」だろう。池田氏が夢見たのは、「いずれ中国も宗教が自由化される。中国布教に手を打っておけば、学会はさらに国際宗教となる」点。しかし、中国は真逆の道を突き進んでいる。

池田氏は1月26日、40回目の「平和提言」を公表した。創価学会インタナショナル会長の肩書で、である。しかし、ここには新疆ウイグルや、台湾、ウクライナなど平和が危殆に瀕しつつある場所への言及は全くなかった。当然ながら、中国に対しては「批判」でなく、「環境問題での日中協力強化」という主張。北京オリンピックボイコットや不買運動など、今そこにある危機にさえ触れていない。

94歳のご老体が「エンパワーメント」や「レジリエンス」などの文言を使う不思議さもなかなかのものだが…。

あわせて読みたい