『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』宝島社/1540円
南原詠(なんばら・えい)
1980年生まれ。東京都目黒区出身。東京工業大学大学院修士課程修了。元エンジニア。現在は企業内弁理士として勤務。
――南原さんは、企業内弁理士として勤務しているそうですね。〝弁理士〟を主人公にしたきっかけはなんですか?
南原 もともとエンジニアでしたが、向いていないと感じて知的財産の仕事に切り替えました。弁理士試験は法律論文を書く試験で、個性を出してはいけないため、ストレスが溜まる勉強が5年以上続いたとき、ふと、答案に何か好き勝手に書いてみたい衝動に駆られました。せっかく勉強した特許の知識がある。主人公が弁理士の物語は聞いたことがないので、主人公にしたら新しさや面白さが出ると思いました。
――そもそも弁理士とはどのような職業なんですか?
南原 弁護士が法律に関するゼネラリストとしたら、弁理士は知的財産権、主に特許権についてのエキスパートです。
弁理士の特徴は、特許権を作るところから踏み込んで関わるところ。1つのアイデアからどんな権利にしようかと考えます。スケッチに似ていて、モデルをどの角度から切り取るかで、同じモデルを見て描いたのに全く違う絵が出来上がります。アイデア(モデル)を全方位から守れるように権利(絵)に切り取るのが仕事です。
特許紛争はルールの中で競い合う知的スポーツ
――本作は、特許侵害を警告され活動停止を迫られたVTuberを救うため、主人公の弁理士が奔走します。VTuberを登場させたのはなぜですか?
南原 話題になっている時事ネタを取り入れようと思いました。しかし一過性の題材は使いたくない。悩んでいたところに話題になっているVTuberを思いつきました。
アニメとの親和性が高いし、世界のVTuberの8割が日本生まれ。ひょっとしたら、これは純国産コンテンツとして世界で戦える産業になるのでは、と思って登場させました。
――本作の見所と次回作のテーマを教えて下さい。
南原 主人公、大鳳未来の信念です。警告書が届くということは、届いた人は特許権を侵害している可能性があります。非があるかもしれないクライアントを守る彼女は、正義の味方とは限りません。しかし彼女は自身の信念に基づいてクライアントを守ろうとします。登場人物たちの信念に注目してください。また、特許紛争は当事者たちにとっては熾烈な戦いですが、ルールの中で競い合う知的スポーツとも言えます。未来たちの戦いを観戦しながら特許紛争がどんなものなのか、垣間見ていただければうれしいです。
次回作は特許とは別のフィールドで戦う未来を描きたいと思っています。
(聞き手/程原ケン)
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