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いまだデフレ状態進行中の日本~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

ガソリン価格や電気代の高騰、パスタ、しょうゆ、マヨネーズなどの相次ぐ値上げ、42年間も10円をキープしてきた『うまい棒』までが12円に値上げということで、メディアの報道はインフレ一色になっている。実際、昨年12月の消費者物価指数は0.8%の上昇と、前年同月の▲1.2%に比べると、2.0ポイントも上昇率を高めている。

そのため、インフレ時代への転換を予想する声も根強い。しかし、「生鮮食品およびエネルギーを除く総合」で見ると、昨年12月の消費者物価上昇率は▲0.7%と物価は下落している。しかも前年同月は▲0.4%だったから、物価下落は加速しているのだ。

いったい何が起きているのか。実は、物価はコスト面から見ると、賃金+利益+輸入で決まる。いまの日本は賃金が増えておらず、利益も増えていない。物価上昇のほぼすべての理由は、輸入品の価格が上がっていることにある。

具体的には、原油、小麦、食用油、アルミニウムなど、あらゆる輸入原材料が急激に値上がりしており、それらは共通して「国際商品取引」の対象になっている。

新型コロナの収束に伴う需給ひっ迫で値上がりしているとされるが、オミクロン株が感染拡大しても高値は継続している。その理由は金融緩和で世界にあふれた投機資金が、商品市場に流れ込んでいるからだ。だから、国産が主体で投機資金が入らないコメの値段は上がっていない。

そのため、アメリカの量的金融緩和の縮小、引き締めに伴って投機資金が減少すれば、いまの国際商品価格のバブル状態が、一気に崩壊する可能性が高いのだ。重要なのは、いまの日本のデフレ状態をしっかり認識することである。

政府は思いきった財政出動をすべき

デフレを判定するために最も的確な物価指標は、GDP(国内総生産)デフレータ(GDP全体の物価)だと言われている。GDPは国内の賃金と利益の合計だからだ。このGDPデフレータは昨年7月~9月期で、前期比▲0.1%とマイナスに転じている。間もなく発表される10月~12月期では、マイナス幅が拡大するだろう。

デフレを放置すると、賃金の低下が消費の低下を招き、それが企業の売り上げ減を招いて、さらなる賃金の低下に結びつく。デフレを退治する手段は、金融緩和と財政出動の組み合わせしかない。だから日銀は、金融緩和を縮小してはならないし、政府は思いきった財政出動をすべきだ。そうしないと、ますます日本経済の転落が激しくなってしまう。

ところが岸田政権は財政出動に否定的だ。1月31日からコロナ禍で窮地に陥った中小企業や個人事業主を救済するため、事業復活支援金の申請受付が始まった。

だが、この支援金はデルタ株による損害を補填するために設計されたものだ。国会でも立憲民主党が、オミクロン株の感染拡大を踏まえて、前回の持続化給付金並みの金額へ給付倍増を求めたが、岸田文雄総理はゼロ回答だった。

また、物価上昇で生活が窮地に追い込まれている国民への給付は、検討さえされていないのが現状だ。本来ならデフレ脱却のために、消費税率の引き下げが有効なのだが、どうしても消費税を下げられないというのであれば、特別定額給付金の再支給を考えてもよい。

とにかく国民の所得を減らさない手段をいますぐ講じないと、日本は再び長期デフレに突入するだろう。

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