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『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』/2月11日(金)より全国公開〜やくみつる☆シネマ小言主義

Ⓒ2021 BILLIE HOLIDAY FILMS, LLC.

『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』
監督/リー・ダニエルズ
出演/アンドラ・デイ、トレヴァンテ・ローズ、ギャレット・ヘドランド
配給/ギャガ

稀代のジャズ歌手、ビリー・ホリデイを、演技経験のないR&Bシンガー、アンドラ・デイが18キロも減量し、話し方と歌う声まで変えて演じきった本作。

自分は残念ながら、双方の歌声を聞いたことがなかったため、どのくらいビリー本人に寄せているのかは分からないのですが、本作でアカデミー賞の主演女優賞候補にもなっているアンドラ・デイの熱唱と、体当たりの演技は見事です。

さらに、この2人には不思議な縁があるようです。

ビリーが黒人ヘのリンチを告発する『奇妙な果実』を歌い続けたのに対し、アンドラも社会に訴える曲を歌っていて、逆境の中で立ち上がることを応援する楽曲『ライズ・アップ』は、ブラック・ライヴズ・マター運動のデモでも歌われたそうです。

そもそも、アンドラ・デイの「デイ」は、ビリーの愛称「レディ・デイ」から取ったというのですから、彼女がビリーを演じるのは必然だったのですね。

黒人に対する被差別は、繰り返し映画化もされた普遍的な問題ではあります。しかも、これは現在進行形の根深い問題で、2020年2月に反リンチ法がアメリカの上院で審議されたものの、いまだ通過してない。つまりリンチは許されたままになっているということを本作のパンフレットで知って、驚きました。

根深い差別問題はアジアにも…

一方で、コロナ禍で表面化したアジアンヘイトでは、黒人がアジア系住民を差別する側に回るのですから、問題はネジれまくってます。

ただ、日本人の感覚では、真の意味で製作者の意図が理解し得ない部分が残るため、星1つ減らしました。

『奇妙な果実』を歌い続けるビリーを公民権運動の扇動者として排除したいFBIがとった作戦は、麻薬常習者としてビリーを逮捕すること。だったらビリーも麻薬を断った上で黒人地位の向上に立ち上がればよいものをと、日本人の遵法感覚からすると思ってしまいます。まぁ、薬物に依存するしかなかった事情もあるでしょうが、天賦の才がもったいないと思うんですよね。

ところで、ヌードも厭わず熱演するアンドラですが、アメリカの方がこの映画を見たら、ここまでやるのかと衝撃を受けるのでしょうか。アフリカのナミビア共和国に旅行した時に経験したことなのですが、都市部の案外近くに伝統的生活を営む部族の集落があるんですね。腰蓑一丁で上半身裸の女性が、普通にスーパーに買い物に来ます。自分は観光客の視線で眺めてしまうんですが、現地の男性ガイドに尋ねると興奮すると言ってました。やっぱり同胞の方の本作の感想は、違ってくるんだろうな、と。

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

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