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スキー離れ…苦肉のターゲットは“昔の若者”~企業経済深層レポート

企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

若者のスキー離れが止まらない。日本生産性本部の『レジャー白書』によれば、スキー人気のピークとされる1993年の愛好者は、全国で約1860万人に達していた。何と、日本人の7人に1人がスキーを楽しんでいたことになる。

しかし、その後は減少が続き2020年は約270万人と、ピーク時の約15%まで落ち込んだ。

「映画『私をスキーに連れてって』が大ヒットしたのが87年で、スキー全盛期の都内スポーツ店は、シーズンになるとスキー用品で一色になりました。関連売り上げも好調で通年全体の5~6割を占めていたが、現在は1割にも満たない。かつては店内で、女性のスキー初心者にアドバイスをする男性の姿が目立ちましたが、最近はそんな光景もほとんど見掛けなくなりました」(スポーツ店関係者)

大ヒットした広瀬香美のCMソング『ロマンスの神様』で知られるスポーツ用品販売大手の『アルペン』(名古屋市)は、今春、国内最大級のスポーツ専門店を東京・JR新宿駅東口にオープンする。しかし、スキーのイメージが強い同社でさえ、昨シーズンはウインター用品を中心に取り扱ってきた150店舗のうち、60店舗でアウトドア用品に重点を移したほどだ。

この思いきった転換により、アルペンは21年6月期決算で純利益が過去最高を記録したというが、創業以来の主力であったスキー用品の衰退を浮き彫りにすることにもなった。

めっきり見掛けなくなった大学のスキーサークル

スキー人口の激減に伴いスキー場の閉鎖も相次ぐ。最盛期には全国に661カ所あったスキー場は、バブル崩壊による倒産などで大きく減少し、21年には442カ所にまで減っている。

今年は早くも佐賀県の天山スキー場が、1月6日付で廃業に追い込まれた。負債は約6億円だという。89年にオープンした佐賀県唯一のスキー場で、人工雪を使ったゲレンデがあり、県内だけでなく近隣の福岡県などから多くのスキー客が訪れていた。

「今回の廃業について、運営の天山リゾートは『数年来の雪不足と新型コロナウイルスの影響』と説明している。しかし、スキー人口の激減が理由であることは間違いないでしょう」(民間の信用調査関係者)

かつては猫も杓子もスキーになびいていたにもかかわらず、当時の若者はどこに消えたのか。スキー離れの原因について、大学の観光学部准教授が解説する。

「ゲームや格安で行ける海外旅行など、この30年間でレジャーが多様化していることが大きい。また、若者の興味がスキーからスノーボードに移り、一気にスキー愛好者が減りました。ただし、現在は若者のスノーボード人口も減少傾向にあるようです」

現代の若者は携帯料金が月に万単位でかかることも多く、その負担も大きくなっている。むしろバブル期だったからこそ、コストがかかるスキーに夢中になれたとも言えるだろう。

「若者世代にはスキーウェアや板などの用具、交通費などの費用は大きな負担とされ、以前は各大学に多くのスキーサークルがあったが、近年はめっきり見掛けなくなりました」(同・准教授)

しかし、それでも旅行業界や各スキー場などは、スキー客の減少に歯止めをかけようと必死だ。旅行業界の関係者が言う。

「スキーをしない人にも強烈なメッセージを届けているのが、JR東日本のキャンペーン『JR SKISKI』です。毎年シーズンになると『青春は純白だ。』『ぜんぶ雪のせいだ。』『私を新幹線でスキーに連れてって』など、名キャッチで若者の心を惹きつけてきた。この冬で同キャンペーンも30周年を迎えたが、今回は『あの冬が、呼んでいる。』と銘打ち、ターゲット層を大きく変えたことが話題になっています」

コロナ収束後の中国人訪日に期待

レジャーが多様化している中で、スキーの魅力を伝えて新規の客層を取り込むには、大変な労力と時間が伴う。しかも、それにもかかわらず不確実だという。

「そこでJRが新たなターゲットとして選んだのが、スキー人気のピーク時に青春時代を過ごしたかつての若者たちです。すでにスキーの魅力を知っている経験層に、もう一度『あの冬が、呼んでいる。』とのキャッチで呼びかけ、スキー場に再来してもらおうというアイデアです」(同)

また、コロナ禍で停滞したが、スキーを目的とした訪日外国人観光客(インバウンド)は、14年~19年までの5年間で2倍以上に増加している。

「日本のサラサラで良質な雪は、海外で『JAPOW』(JAPAN+POWDER SNOW)と絶賛されています。コロナ前、最も多い外国からのスキー客は中国人で、同国は現在、北京五輪を控えて空前のスキーブームだという。それだけにコロナ収束後、中国人が大挙して訪日する可能性が高いのです」(前出の観光学部准教授)

若者のスキー離れで逆風が吹く中、新型コロナのリベンジ消費やスキー用品の進化など、最近はスキー回帰の動きも見え隠れしている。果たしてブームの再来はやってくるのか。

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