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岸田首相が舵を切る“自公民”路線!コロナ第6波で早くも正念場

岸田文雄 (C)週刊実話Web

「新型コロナに打ち克つことに全身全霊で取り組んでまいります」

1月17日に開会した通常国会での施政方針演説で、岸田文雄首相はオミクロン株対策に徹底的に取り組む決意を表明した。

首相に近い政府関係者が話す。

「仕事始めの4日以降、感染が急拡大し、首相が『東京と大阪の増え方が急すぎる』と声を荒げるなど、官邸内は半ばパニック状態になりました」

長期政権の樹立と参院選勝利のために首相が心掛けているのは、得意の「聞く力」による安定した政局運営と経済重視の姿勢、そして新型コロナへの先手対応だ。対応が後手に回ったことで批判を浴び、退陣に追い込まれた菅義偉前首相と同じ轍を踏まないためである。

だが、共産党の志位和夫委員長が自身のツイッターで《何もかもが遅れている》と批判したように、岸田政権が迅速なコロナ対策に取り組んできたとは言い難い。ワクチンの3回目接種の遅れに、それが最も顕著に表れている。

3回目接種は昨年12月に医療従事者から始まったが、年内に終えたのは対象者104万人のうち75万人だけ。世界でのオミクロン株感染拡大を受けて、高齢者施設の入所者らが前倒し接種の対象に加わり、12月に接種できる人数は計880万人になったが、ほとんど進まなかった。

ワクチン不足が原因ではない。1、2回目用の政府分在庫が米モデルナ製だけで2200万回分、自治体には米ファイザー製が計900万回分残っているはずだった。これらを含め、今年3月までの確保分は計算上、計7500万回分になっている。にもかかわらず、なぜ接種が進まなかったのか。先の政府関係者によると、ワクチンを所管する厚生労働省がブレーキをかけたという。

安倍、菅政権では「官邸主導」の下に、官邸が「首相の指示だ」として、有無を言わさず省庁を動かしてきた。だが、岸田政権では「行き過ぎた官邸主導が忖度政治を招いた」として、省庁の自主性を重んじる方向に転換した。

致命傷になるオミクロン株の封じ込め失敗

今回の3回目接種では厚労省が、その「自主性」を発揮。「1、2回目の接種をきちんとやった自治体ほど、在庫がないので公正さを欠く」として、在庫がある自治体から接種を始めず、足並みがそろうまで待ったをかけたという。

そのため、状況は1月に入っても変わらず、23日現在で3回目のワクチン接種を終えたのは計236万3995人、接種率はわずか1.87%にとどまる。先進7カ国(G7)のほとんどが30~70%に達している中、日本だけが取り残されている格好なのだ。

官邸のシミュレーションでは、感染者数は2月上旬にピークを迎え、東京で2万人、全国で10万人を超える可能性があると想定。まん延防止等重点措置の延長か、5回目の緊急事態宣言の発令は避けられないものの、その後は減少に向かい、4月中には収まると予測している。

しかし、ワクチン接種の目的は、死者数や重症者数の抑制と、医療体制ひっ迫の回避にある。感染状況が官邸の想定通りに推移したとしても、死者数や重症者数を最小限に抑え、安定した医療体制を確保できているかどうかは別問題だ。

岸田首相としては、コロナ対策に万全を期し、2022年度予算を成立させれば、参院選の勝利も見えてくると踏む。勝てば、次の国政選挙は最長で3年先なので、25年までの長期政権が視野に入る。

岸田派幹部によると「首相は『2年後の総裁選で再選できれば、任期は27年秋までだね』と話している」という。安倍晋三元首相に並ぶ超長期政権を夢想しているのだ。しかし、オミクロン株の封じ込めに失敗すれば、超長期政権など「絵に描いた餅」で終わる。首相にとって、いまがまさに正念場なのだ。

そんな岸田首相を横目に、またぞろ動き始めたのが菅氏と安倍氏だ。菅氏は昨年12月下旬に東京・赤坂の日本料理店で、石破茂自民党元幹事長、森山派会長の森山裕総務会長代行、二階派の林幹雄前幹事長代理と武田良太前総務相の計5人で会食し、健在ぶりをアピールしてみせた。先の総裁選で、河野太郎広報本部長を支援した面々だ。

あの手この手で安倍氏懐柔に動く岸田首相

菅氏はこの会食以降、報道各社のインタビューやテレビ出演に積極的に応じ、岸田政権のオミクロン株対応を批判。自身を支援する無派閥議員グループについて、派閥化には慎重姿勢を変えないものの、政策グループとして活動を続ける考えを明確にした。

実は、菅氏に「菅派」旗揚げを促しているのは安倍氏である。総裁再選への支援を約束しなかったことで2人は溝を深めていたが、昨年末に久しぶりに会食して和解。かつての「ASライン」復活を印象付けた。

安倍、菅両氏は、いざ政局になれば主導権を握るべく、岸田政権の主流派に並ぶ勢力を密かに整えようとしているのだ。

だが、岸田首相もただ傍観しているだけではない。岸田派幹部によると、首相は「ここ最近の安倍氏の動きは、権力への執着と焦りからきている」と見定め、あの手この手で懐柔に動いているという。

年明けの報道番組などで安倍氏について聞かれると、岸田首相は「外交をはじめ大変ありがたい助言をいただいている」などと謝意を表明。11日夜には、皇居脇のパレスホテル東京内の日本料理店に誘い、2時間にわたり安倍氏の話に耳を傾けている。

先の岸田派幹部は「何ごとも政権安定のため。常に安倍氏への配慮を欠かさず、『つかず離れず』を実践しているということだ」と話す。

では、岸田首相は菅氏の動きをどう受け止めているのか。「赤坂5人組」の会合について、首相は周囲に「あれ、菅さんじゃないだろ」と述べたという。

会合を仕掛けたのは菅氏ではないと見たのだ。二階派ベテラン議員によると、首相が察した通りで、首謀したのは武田氏だという。会合が開かれたのは東京・赤坂の『外松』で、亀井静香元建設相が根城にしていた料亭だ。そんな亀井氏の秘書から身を起こし、03年の衆院選で初当選したのが武田氏なのだ。

仕切り役が武田氏だったのであれば、会合の見え方は違ってくる。

「武田は『ポスト岸田』の一角を狙っている。資金力は党内でも群を抜いており、いずれ二階派を継ぐ。5人組の枠組みは、将来の『武田派』の骨格になり得る」

先の二階派ベテラン議員いわく、赤坂会合は武田氏による「名乗り」なのだ。

与野党を超えた新たな政権運営の枠組み

ただ、その声は岸田首相にも届いており、そもそも首相も武田氏を買っているという。武田氏は福岡県田川郡生まれで、筑豊炭鉱の「川筋もの」から名をはせた往年の実力者、田中六助元自民党幹事長の甥に当たる。その田中氏が最側近として仕えたのが、宏池会「中興の祖」として岸田氏が仰ぐ大平正芳元首相なのだ。

武田氏と首相はここでつながる。先の二階派ベテラン議員は読む。

「首相は参院選後の内閣改造で武田を引き上げるだろう。本当の武田の狙いは主流派入りだ」

会合の実態が見えれば、菅氏らが再度、河野氏を担ぐ動きを見せたとしても、対処は難しくない。すでに河野氏に対しては、麻生太郎副総裁が自重を促しており、河野氏は「ぞうきんがけに徹します」と話しているという。

オミクロン株の大波を受けてはいるものの、岸田政権は発足100日を過ぎて安定期に入っており、現時点では基盤が大きく揺らぐようには見えない。読売新聞による1月の世論調査では、内閣支持率は66%にまで上昇している。

野党が対抗する姿勢を見せるが、19日に通常国会の代表質問に立った立憲民主党の泉健太代表は、どうにも迫力不足が否めず、予算委員会でも政権に有利な状況が続きそうだ。それでも首相は参院選勝利を盤石なものにするため、野党勢力にもくさびを打ち込もうと手を回す。

55年体制下では、野党の公明党と民社党が政権運営に協力した「自公民路線」が取られた。香川の大平元首相の旧選挙区を地盤とし、「大平の後継者」を自認するのが国民民主党の玉木雄一郎代表だ。首相の脳裏に、与野党を超えた新たな政権運営の枠組みが浮かんでいても不思議ではない。

岸田首相は参院選後の長期政権まで見据え、党内を総主流派体制でまとめることができるのか。そして、野党にもウイングを広げ、安定的な国会運営の基盤を築くことができるのか。

オミクロン株の試練を乗り越えられれば、道筋もおぼろげながら見えてくる。

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