『職務質問』新潮新書/924円
古野まほろ(ふるの・まほろ)
東京大学法学部卒業。リヨン第三大学法学部修士課程修了。学位授与機構より学士(文学)。警察庁Ⅰ種警察官として警察署、警察本部、海外、警察庁等で勤務し、警察大学校主任教授にて退官。作家として有栖川有栖・綾辻行人両氏に師事。
――職務質問はしばしば「任意か強制か」と議論されることがあります。本当に断ることはできますか?
古野 拒否することは可能ですし、それは市民の自由・権利です。職務質問は純度100パーセントの任意活動で、その対象となった市民の権利義務を一切変動させないからです。
ただし他方で、警察官は「回答するよう説得する/停止するよう説得する」ことができますし、そのとき一定の要件が満たされれば、相当な範囲で「一時的な実力行使をする」こともできます(強制活動にならない限り適法・合憲です)。とすれば、事態は《拒否する権利》×《説得・一時的実力行使をする権限》という、ともに適法な法的利益のぶつかり合いになるため、拒否したとき結果がどうなるかは、現場でのやりとりと判断になります。
――警察官は不審者のどのような部分をチェックしているのですか?
古野 端的には「TPOから浮いているかどうか」です。具体的には、通常ではない、怪しい、不自然だと後で裁判所も納得するほど認定できるかどうかです。
実際には、常に警ら等で地域社会、地域住民を見続けている警察官が、「どこか違う」「いつもと違う」「周囲と違う」と、職業的違和感を抱いたときに、職務質問となります。
最も得をするのは「警察官以上の大人の対応」
――実際に職務質問は成果を上げているのですか?
古野 上げています。客観的な数字として、年間3万ないし4万件の刑法犯が、職務質問を端緒として検挙されています。これは、警察全体が検挙する刑法犯のうちの1割以上になります。
また、制服警察官が街頭で職務質問を励行する姿を示すことは、それを目撃する地域住民の安心感や体感治安の向上に直結するため、活動そのものに効果があります。
――実際に職務質問されたときの対処方法は?
古野 拒否する自由・権利は絶対的なものですが、それは義務ではありませんので、事情の許す限り、素直に警察官の質問や所持品検査に応じることをお勧めします。「ハイハイ」と不審者扱いされた不快をのみ込み、挑発的に思える言動があってもスルーして余計なことは言わずに淡々と応じていれば10分程度で解放されます。
罪を犯していない限り、どのみち最後は解放されるのです。ならば市民が最も得をするのは、どれだけ早く解放されるかを考えた「警察官以上の大人の対応」をすることです。無駄に議論を長引かせ、「一時的な実力行使」なんて不快なものをされても、つまらないですからね。
(聞き手/程原ケン)
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