12月13日の国会で岸田文雄総理は、「18歳以下への10万円一括現金給付を選択肢として認める」との見解を示した。
野党が批判してきた5万円のクーポン給付を事実上、ほぼあきらめる決断だ。国民のニーズが圧倒的に現金であり、クーポンの事務費に967億円もの費用が必要なことから、クーポン給付はあまりに筋の悪い政策だった。
だが、直前まで政府はクーポンにこだわってきた。現金給付を可能にする条件として、「来年春の卒業・入学・新学期に向けて支援する」という制度の趣旨に従って、クーポンの準備が間に合わない場合に限るとしたのだ。ただ、そうなると大部分の自治体の準備が間に合わなくなるので、「新学期は一般的に4~7月を指す」として、6月末までの準備が不可能な場合に限定する方針を示していた。
政府がこんな屁理屈を持ち出した理由は、新たな給付金要求を避けるため、給付を先送りしたいからだろう。7月に予定される参議院選挙の直前まで引っ張れば、新たな給付金支給の要求が出づらくなると同時に、選挙対策にもなる。だからこそ、野党は今後その点を追及すべきなのだ。
昨年度の特別定額給付金が全国民を対象としたにもかかわらず、今回の給付は所得制限付きの18歳以下という厳しい制約があり、対象となる国民は、全体の14%にすぎない。総選挙のときは、与野党ともに「コロナで生活が困窮した人を救済する」と主張していたのに、それがまったく果たされていないのだ。
本当に困窮している人を救うべき!
それだけではない。10月から「中所得者」の後期高齢者が負担する医療費について、自己負担を倍増させる方向で調整しているのだ。現在の後期高齢者医療制度では、窓口負担は原則1割になっている。単身で年収383万円以上の「現役世代並み」所得者だけが3割負担だ。そこに単身の場合、「年収200万円以上383万円未満」という「中所得」の区分をつくり、窓口負担を1割から2割に引き上げようというのだ。
実は、この中所得層の年収200万円というラインは、かなり微妙だ。現在の厚生年金の受給者は、平均年金額が175万円となっている。となると、平均賃金より収入が高かった人や繰り下げ受給をしている人、あるいは生活費が足りなくてアルバイトをしている人が、中所得になってしまう可能性があるのだ。
実際、新制度で窓口負担が倍増する人は、75歳以上人口の2割、370万人にも達するという。しかも、これだけの負担増を課して、現役世代の負担減は2025年度で1人年間800円にすぎないというのだ。この医療費窓口負担増は、21年6月に成立した医療制度改革関連法で決まっていたが、実施時期については22年10月から23年3月の間と、幅を持たせていた。今回、その中で最も早い時期に実施する方針になっている。
私がとても気になっているのは、最近の政策が若年層や子育て世代を重視して、高齢者を冷遇しているのではないかということだ。後期高齢者になると、どうしても医療機関を受診する必要性が高まる。それを踏まえて年収200万円というのが、本当に医療費負担を倍増させてよいほど豊かだと言えるのだろうか。
75歳以上で働き続けている人は1割もいる。政治は、本当に困窮している人を救うことを考えるべきだ。それは現金かクーポンかより、ずっと重要なことだ。
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