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終身雇用崩壊…大企業の希望退職に“応募殺到”~企業経済深層レポート

企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

かつて1980年代には「楽しくなければテレビじゃない」のキャッチコピーの下、毎年のように視聴率三冠王を達成し、我が世の春を謳歌したフジテレビが、11月25日、希望退職者を募ると発表した。その衝撃が各業界にじわりと広がりつつある。

満50歳以上のバブル入社組や勤続10年以上の社員が対象で、フジテレビの最盛期を支えてきたベテラン社員がメインだ。退職金には特別優遇加算金がプラスされ、希望者への再就職支援もするという。テレビ業界の関係者が言う。

「会社はキレイ事を並べるが、要はリストラですよ。フジは広告収入や不動産収入が激減する中、個々の給料が異常に高い。勤労意欲も失せて、ただ会社にしがみついているオッサンたちを切り捨て、人件費を抑えたいのです」

確かにフジテレビを傘下に持つ『フジ・メディア・ホールディングス』の2021年3月期決算を見ると、苦境ぶりがうかがえる。

同期の売上高は約5199億円だが、これは対前年比17.7%減という惨憺たる数字。メディア事業は約758億円で、約15%も対前年比を下回っている。営業利益に至っては対前年比約38%減だ。大手広告代理店の社員が解説する。

「在京キー局では長年にわたりトップだった地上波の番組視聴率が、10年ごろから下がり始め、今や視聴率はテレビ東京とドン尻争い。急激なスポンサー離れにより、退職者もちらほら出ていました」

50歳以上の平均年収は約2000万円!

フジテレビの社員は約1300人だが、リストラ対象者は約300人。会社は、そのうち100人でもリストラできれば、経営健全化に向かえると踏んでいた。元フジテレビ社員が解説する。

「フジの場合、50歳以上の平均年収は約2000万円なので、定年まで頑張れば1億を超える。しかし、窓際族ともなれば、あれこれ嫌味を言われた揚げ句、最悪60歳前に強制退場もある。それなら今、リストラされて1億円をもらい、心機一転、新しい仕事にチャレンジする手もあります」

ところで今、急きょ希望退職者を募集している企業は、なにもフジテレビだけではない。大手信用調査会社の東京商工リサーチによれば、21年(1~10月)、上場企業における希望退職者募集は72社にも上るという。経営コンサルタントが次のように解説する。

「72社を分析すると大きく2つの流れとなる。1つは黒字企業によるもので、5年後を見据えた構造改善に向けての募集。2つ目はただ単に経営が苦しく、希望退職者を募っている企業で、こちらが72社のうち約6割を占めています」

端的な例を2つ挙げよう。まずは5年後を見据えた希望退職者募集だ。

「自動車大手のホンダが今春、55歳以上64歳未満の社員を対象に希望退職者の募集を行ったところ、約2000人が殺到した。ホンダの国内社員数は約4万人なので、約5%が手を挙げたことになります」(同)

なぜ、これほど多くの希望者が出たのか。その理由として、まずホンダならではの優遇された退職金がある。通常の退職金に、最大で賃金の3年分が上乗せされる制度があり、平均退職金は8000万円相当になるという。そのため、希望退職で「億り人」が続出する可能性もある。

政府はノンキに「定年は70歳まで」と言うが…

しかし、そこまで莫大な経費をかけて、ホンダが希望退職者を募る理由は何か。自動車業界の関係者が指摘する。

「EUの欧州委員会は、温暖化ガスの大幅削減を実現するため、2035年までにガソリン車販売を完全禁止する方針を打ち出した。ホンダは今年5月、この流れに打ち勝つために、早期でのエンジン車から電気自動車への大転換を表明したが、実は電動化に向けての技術陣が圧倒的に薄い。経営状態が安定しているうちに、電動化のための若手技術者を大量に雇って、人材育成を急ぎたいのです」

さて、もう1つの流れが「追い込まれ型企業」の希望退職募集だ。例えば『KNT‐CTホールディングス』は、いわゆる『近畿日本ツーリスト』を傘下に持つ持株会社だが、創業以来の厳しい状況に置かれている。旅行業界の関係者が明かす。

「コロナ禍で旅行業界はボロボロ。そのためKNTも、24年度までに従業員約7000人のうち約3分の1を削減し、店舗も大幅に縮小して経営再建を目指す計画です。こうした業界に見切りをつけ、希望退職枠に約1400人の応募があったといいます」

先の商工リサーチが挙げた72社の中にも、大規模な希望退職者を募った例がある。1000人以上となるのは『日本たばこ産業』の2950人、『LIXIL』の約1200人、パナソニックの約1000人、そして前述のホンダとKNTの5社に上る。

日本企業の強さの根源と言われた「終身雇用制度」は、今や風前の灯だ。我々は政府の「定年は70歳まで」という呑気な掛け声と、厳しい現実とのギャップの中で、どう生き延びるかを必死で模索するしかない。

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