大相撲の九州場所(福岡国際センター)もいよいよ終盤。優勝争いも白熱してきたが、連覇を目指す横綱・照ノ富士をはじめ、上位陣に交じってひときわ目を引いている下位力士がいる。
下から3枚目、西前頭15枚目の阿炎だ。
ご存じの通り、何かトラブルや違反を犯せば出場停止処分を科して下に落とす、というのが協会の方針。今場所、新型コロナウイルス対策のガイドラインに違反してキャバクラに通っていたことがバレ、6場所出場停止処分になった前大関の朝乃山が、とうとう平幕に落ちた。来場所は十両転落が必至で、入れ替わるように幕内に戻って来たのが、同じ違反で3場所出場停止処分を食っていた阿炎である。
こちらには、昨年6月に結婚し、子供も生まれていたが、生活態度を改めるため妻子と別居して錣山部屋に移るという、切ないペナルティーもついていた。
7場所ぶりに幕内に戻った阿炎に、場所前、さすがに師匠の錣山親方(元関脇・寺尾)も、「もういい。(妻子と)一緒に暮らせ」と同居を勧めたが、これを拒否。「幕内で勝ち越して、自分の中でヨシと思ったときに胸を張って一緒に住める」と、阿炎は自らに新たな宿題を課し、妻子のもとには帰らなかった。
もっと違った処分方法があってしかるべき!?
これが連日の〝けれんみ〟のない相撲につながっているのだろう。序盤から得意の突き押しがさえ渡り、初日から連勝街道。10日目まで1敗をキープし、優勝争いのダークホース的存在になっている。
「勝敗は気にしていない。思い切り元気な姿を見せられたらいい」
阿炎はこう謙虚に振舞っていたが、伊勢ケ浜審判部長(元横綱・旭富士)は、「勝つのは当然でしょう。力が落ちたとか、ケガで落ちたわけではないんだから」と、やや冷ややかだった。
そう言えば、処分前の阿炎は3場所連続して小結だった。今場所、やはりガイドライン違反を犯し、幕下で再スタートを切った幕内の常連、竜電も好成績だし、朝乃山も、復帰すれば連戦連勝するはずだ。
「おかげで、彼らが落ちた先にいる力士たちは、いい迷惑ですよ。彼らには彼らなりの成長ペースがあるのに、突然、大関や三役が落ちて来て引っかき回すんですから。ただ下に落とすだけでなく、もっと違った処分方法があってしかるべきです」(担当記者)
阿炎を含む〝ペナルティー力士〟たちの活躍の向こうから、踏み台にされた力士たちの悲鳴が聞こえる。
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