『ほんとうのピノッキオ』
監督マッテオ・ガローネ
出演/ロベルト・ベニーニ、フェデリコ・エラピ、マリーヌ・ヴァクト、ロッコ・パパレオ、ジジ・プロイエッティ
配給/ハピネットファントム・スタジオ
誰もが知るというか、誰もが知っているつもりの、100年以上前に書かれた児童文学『ピノッキオの冒険』を実写化した本作。今日に至るまで「嘘をつくと鼻が伸びる」「人形が人間の子供に戻るらしい」など、ざっくりとしたエピソードしか知らなかったのですが、イタリア人監督が原作に忠実に、大人こそが楽しめるダークファンタジーに仕上げたそうです。
自分は1939年の映画『オズの魔法使い』の大ファンで何度も見返しているんですが、本作はまさに「21世紀のオズの魔法使い」と言ってもいいほど。過度にCGに依存せず、入念に作り込まれたキャラクターや世界観にグッと心を掴まれました。
衣装デザインや特殊メークでアカデミー賞にノミネートされるほどの一流のスタッフを集め、本気でファンタジーに取り組むとこうなるんだという証明のような気がしましたね。一緒に本作を見たカミさんは、ディズニー映画か児童書で筋を知っていたようで、「あのシーンはどう表現するんだろう」と、随所でワクワクしたようです。
意外だった“嘘をつくと鼻が伸びる”シーン
単なる「嘘をつく悪い子がいい子に生まれ変わる話」ではなく、人形としての束縛を嫌って無鉄砲にもおじいさんの家を飛び出したはいいものの、強欲なキツネやネコに騙されて吊るし首になってしまったり、誘惑や欲望に負けてロバに変えられたり…。社会の不条理や、子供を利用しようとする大人たちの思惑に翻弄され、何度も挫折しながら少しずつ成長していく物語です。
意外だったのは、「嘘をつくと鼻が伸びる」シーンはわずかしかなく、「嘘はいけない」という戒めにも、あまりなっていないことでした。そんな安っぽい教訓話じゃなかったんですねぇ。コオロギの幾度もの助言やお説教には絶対に耳を貸さず、痛い目に遭ってばかりの悪童の部分を否定していません。
さて、カミさんの記憶では海でピノッキオが飲み込まれるのはクジラだったそうですが、原作ではどうやら巨大サメのようです。ピノッキオはサメのお腹の中で再会したジェペット爺さんや、死を覚悟して絶望していたマグロとともに勇気を持って脱出しますが、このマグロのキャラが懐かしのシーマンにそっくりで笑えます。
ところで、見終わった夜、夕食用に買って帰ったマグロの刺身のパッケージを何気なく見たら、なんと地中海「マルタ産」。映画で見たのと同じ地中海マグロをいただく偶然に驚きました。もちろん、おいしゅうございました。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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