季節が変わるのは早いもので、ついこの間まで酷暑だなんだと言っているうちに、気がつけばだいぶ涼しく過ごしやすい陽気になってまいりました。
せんだって、まだ暑い盛りの夏休みも終わりの頃に、釣り仲間の誘いで兵庫県は有馬温泉の〝有馬ます池〟にてマス釣りを楽しんだお話は、この連載でも書かせていただきました。その際に気になったのが、有馬温泉駅の駅前を流れる有馬川です。水質も悪くなく、なおかつ温泉街の中心部を流れるとあって、実に釣りやすそうな雰囲気に「ためしに竿を出してみたい…」と強く感じたのでした。こういった人気観光地を流れる川は、足場がよい割に釣り場として見られることが少ないせいか、意外と面白い釣りになることがあります。ただ、その時は「手ぶらでいいから」と言われていたために竿も何も持っておらず、近いうちにやってみよう、と記憶に留めて再来を誓ったのでありました。
以来、粘着質なワタクシとしては有馬川がずっと気になっており、気になりだしたら行かねば気が済まない、ということで竿と道具を持って有馬温泉へと向かうことにしました。平日とあって人影もまばらな駅前を抜け、まずは温泉街から少し外れたエリアで小手調べです。
道の上から川面を覗くと、浅いながらも点在する淀みにはスーッと泳ぐ魚影が見てとれます。「いるいる!」はやる気持ちを抑えて、安物の渓流竿に簡単な仕掛けをセット。エサのミミズを付けて、淀みのやや上手にソッと仕掛けを流すや、ブルッ! とすぐにアタリが出ました。手首を返して竿を煽るとブルブルッと元気な手応えで釣れたのはカワムツです。里川ではよく目にする、いわゆる〝雑魚〟ですが、雑魚の元気な川は健全な証し。なにより気になっていた場所での最初の1尾は嬉しいものです。
里川の小物釣りと思いきや…
その後もカワムツやハゼの仲間のヨシノボリなど、里川の雑魚達からの手応えが続き、「この魚影の濃さであれば遊歩道からでも楽しめそう…」と温泉街の中心部に移動してみることにしました。
休日には賑わいを見せる温泉街も平日の朝は静かなもので、階段を下りた川沿いの遊歩道に人影はありません。手付かずの大自然に囲まれて竿を出すのもよいものですが、徹底的に人の手が加えられた観光地で竿を出すというのもまた独特に趣のあるものです。
整備された遊歩道を歩きながら、特によい雰囲気を感じさせる落ち込みに仕掛けを入れて待つうちに、ほどなくグリグリッ! と明確なアタリが伝わりました。
「やはり、こんな人工的な流れにも魚はいたか」と竿を煽るとズンッ! …根掛かり? いや、動いています!! グワングワンッと強烈なヒキに、何だかよく分からないまま、とにかく切られてはならじと耐えます。なにせ先ほどのカワムツ程度を想定した細仕掛け(袖針4号ハリス0.6号)なので無理はできません。
ひたすら耐えて、だましだまし弱らせ、ようやく浮いてきたのは、40センチは軽く超えているであろう、よく肥えたニジマスです。上流にあるます池から落ちて育ったのでしょうか。もちろん玉網など用意しているはずもなく、遊歩道とはいえ水面までは若干の高さがありますから、この重たさで抜き上げれば切れるのは必至。さてどうしたものか…。
温泉観光地は侮れない!?
バシャバシャと、時折暴れるニジマスにヒヤヒヤしながら、周りを見ると水面ギリギリまで降りられる箇所を発見。まだまだ抵抗する魚を慎重に誘導して、「暴れないでねっ!」と祈りつつ素手でわしづかみにして捕獲成功。ヒレの欠けがない張りのある綺麗な魚体です。それにしても、面白そうとは感じたものの、この細い流れにこのサイズのニジマスがいるとは、ちょっとビックリです。
今日はカワムツを何尾か釣って素焼きで晩酌を、などと考えていたのですが、コレが1尾釣れればもう十分に満足。竿を畳んで、せっかく有馬温泉に来たのですから、名湯〝金泉〟が楽しめる外湯、〝金の湯〟で温泉を楽しんでから有馬温泉を後にしたのでありました。
ということで、今日の晩酌の肴は、よく肥えて旨そうなニジマスのムニエルです。冷えたビールをクッとやってからアツアツのムニエルを口にすると、フワッとした食感にほどよい脂のり、淡白ながらも香ばしい白身はビールにも合います。手にはあの強烈なヒキの感触が残っており、「これがあるから観光地の釣りは侮れん」と余韻に浸る時間もまたいいもの。
次はどこの温泉観光地に行こうかしら、などと画策しつつ夜は更けていくのでありました。
三橋雅彦(みつはしまさひこ)
子供のころから釣り好きで〝釣り一筋〟の青春時代を過ごす。当然のごとく魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。
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