エンタメ

『護られなかった者たちへ』/10月1日(金)より全国公開〜やくみつる☆シネマ小言主義

Ⓒ2021映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

『護られなかった者たちへ』
監督/瀬々敬久
出演/佐藤健、阿部寛、清原果耶、林遣都、永山瑛太、緒形直人、吉岡秀隆、倍賞美津子
配給/松竹

東日本大震災から10年目の仙台で起きた、謎の〝餓死〟殺人事件。その被害者は、格差が広がり続ける社会の最後のセーフティネットである社会福祉事務所の「生活保護課」職員だった…。

震災直後の描写から生活保護の闇まで、生々しいまでに現実を突きつけてくるので、シンプルに謎解きを「楽しむ」ミステリーとは言い難いのですが、「大作」感は半端ない。それはひとえに、隅々まで豪華な配役のなせる技かと。

犯人役の佐藤健、刑事役の阿部寛はもちろんのこと、殺されてしまう人まで緒形直人と永山瑛太。死体まで彼らが演じきるからこそ、殺しの手段が餓死という悲惨さが迫ってきます。さらに、事件の鍵を握る倍賞美津子の鬼気迫る老婆っぷり。樹木希林、市原悦子亡き後のポジションにビタッとハマっています。

そして、冒頭からの震災時のシーン。瓦礫の山や遺体安置所など、よくぞここまでと思うほどにリアルな再現度です。オール宮城ロケということですが、地元の方々がこの映像に耐えられるのだろうかと心配になるほど。直接被災した人間ではない自分でさえ10年前の記憶は生々しく、到底、風化していないと思えるのですが…。

主演の佐藤健はまさに適役

震災以降も続く自然災害、コロナ禍と、なすすべもない問題が次々と重なり、日本社会の格差と分断は広がるばかり。そんな現実を「生活保護課」という、映画には珍しい側面から光を当てた本作。生活保護にまつわる支給側と需給側の矛盾や葛藤もあまりに現実的に描かれていて、実際の現場の方の許諾は大丈夫だったのかと、ここでも心配になりました。

まるでドキュメンタリーを見ているように心をざわつかされ続けて…と思いきや、「エッ!? こうくるか」というラストの展開とのギャップ。見終わった後も戸惑い続けてしまったのは、ご覧になれば共感していただけるのではないでしょうか。話の筋を混乱しがちな自分ですので、いつも通り見る前にパンフの人物関係図をチェックしたのですが、震災後に不思議な共同生活を始めた佐藤健と倍賞美津子、カンちゃんという少女。そして誰とも線で繋がらずポツンと配置された西田尚美…シンプルな相関図に、タイトルにある「護られなかった者」の謎が潜んでいると、一つだけヒントを申し上げたいと思います。

それにしても、主演の佐藤健。今まで演じたことのない人物像だったそうですが、まさに適役。天涯孤独で自暴自棄になった男を、少し猫背の歩き方一つで見事に体現していて、さすがでした。

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

あわせて読みたい