「優勝」の二文字が、怪物を覚醒させたようだ。
9月10日の東北楽天戦で、千葉ロッテの佐々木朗希投手が自己最長となる8イニングを投げ、被安打2、失点2と好投。あの田中将大を相手に一歩も引かなかった〝ド根性投球〟に「高校時代の163キロはダテじゃなかった!」と、ファンをうならせた。
「佐々木が8回まで投げましたが、7回途中から5連続三振を奪っています。その気合いが、9回最後、B・レアードのサヨナラホームランにつながったんでしょう」(スポーツライター・飯山満氏)
しかし、佐々木を発奮させたのは、優勝への思いや、田中との投げ合いとなった大舞台のせいだけではない。チームの戦力として「認められたい」という〝承認欲求〟もあるようだ。
「佐々木はルーキーイヤーだった去年から、ずっと特別扱いでしたからね」(球界関係者)
昨季、佐々木は二軍戦を含め、1試合も投げていない。そのあまりにも特殊な育成法は、「過保護すぎる」と賛否両論が渦巻いたのは記憶に新しい。
チームに馴染みたいとの思い
「教育係となった吉井理人投手コーチが目の届く場所で指導すると決めたため、出場登録もされないまま一軍帯同となりました。試合前の練習も別メニューになるケースが少なくありませんでした」(同・関係者)
そうなると、試合に出る一軍選手たちと佐々木の間に微妙な距離ができてしまう。二軍戦も、出ていないのだから同様だ。他のロッテ選手たちが冷たく当たったことは一度もないが、佐々木は早くチームに馴染みたいとの思いでいた。
チームの一員として認められるには、試合で活躍するしかない。勝利に貢献するため、身を粉にして投げるのみ。佐々木は、その思いを強く持っていた。
「オリンピック休暇中、佐々木を二軍に落とすかどうか、首脳陣が話し合いました。理由は、新人王のことです」(同)
シーズン登板回数が30回以下なら、新人王争いは翌年に持ち越しとなる。今季前半戦終了時、佐々木の投球回数は26回3分の1。しかし、本人がこれを強く固辞したという。
「今季はオリックス・宮城大弥が11勝(9月14日時点、以下同)、日本ハムの伊藤大海が9勝と、ハイレベルで新人王を争っています。佐々木はまだ2勝なので、個人タイトルよりも優勝を選択したようですね」(ベテラン記者)
〝ワンチーム〟の精神は本物だ。耐え忍んで大輪を咲かす。令和の怪物にも、そんな古風な一面があるようだ。
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